末 裔 と 化 け 物



 銀河を漂う少年は、雲の中に手を突っ込むと、未熟な雷たちを呼び寄せた。
 それを見ていた嫉妬深い星座たちは、謀反を起こし、地上のカーニバルから風船だけを奪うことに熱中する。
 子どもたちは何だか物足りなくて生半可な夢ばかりを見るようになる。
 おとな達は何がなくなったのか分からないまま苛立って、子どもたちへ買ってやるお菓子のための金をギャンブルに注ぎ込み始める。
 風船を奪われただけで崩れ去った均衡を眺めて少年が思ったことは二つ。
 世界を構築していた風船の偉大さ、それから、風船によって支えられていたこの星の、地上の、摩訶不思議さ。
「口の中がパチパチするんだが」。
 少年を覆うような体勢でくつろいでいた巨大な獣が低く唸った。
 集めた雷を口の中へと押し込まれているからだった。
 少年は微かに発光しているその咽喉を撫でてやった。
「本当だ。光りながら、パチパチ言ってら」。
 教会の尖塔から身投げした子どものうち数名は、こうやって夜空へ落ちてくる。魂の優劣ではなく、天災のような気まぐれな頻度でもって。
 凹凸のある青の瓶越しに覗き込んだ世界が、歪んで見えたにしろ世界であることに変わりないように、重力に引き寄せられてただただ落下するのではなく、逆らってどんどん上昇することもまたあるのだった。とても、たまに。
 それは偶然なのだと、巨大な生き物は言う。
 だから何も特別なわけではない、と。
 聞く耳、持たず。
 鋭い牙の隙間から手を入れて、雷の感触を確かめていた少年は、これだけあればあの街を潰せる、と呟いた。
 巨大な生き物は気乗りしなかった。
「準備はいいね。さあ、落としておやりよ、カイトスランタン」
 天空の生き物は躊躇わなかった。
 但し、その口から吐き出されたのは、無数の流星もどきだった。
「……どうして命令に背くんだ」
 地上の一角が、一瞬にしてパッと燃え上がる瞬間を楽しみにしていた少年は、ふんぞり返って文句を述べた。
 カイトスランタンは表情を変えず、怒りでぷくっと膨らんだ頬に頬擦りした。
「殺戮は、楽しんでやることではない。そんなことしたら、お前、また地上へ落ちてしまう」
「また?」、まるで前回があったような口ぶりに振り返った少年は一瞬、寄り添った背後の生き物が、醜悪とかけ離れた容姿をしているところを目にした。
 しかしそれは本当に一瞬のことで、訊ねるタイミングも逃してしまった。
「……ひとりはゴメンなんだ」
 睨み合いに負けて先に目を逸らしたのはカイトスランタンのほうだった。
 少年は笑って彼のヒゲを撫でる。
 地上で人々は雷雲の行方を案じている。
 雲の上で戯れる、ふたりの影を隠すように、噛み砕いた稲妻で流星を模した輝きが雨と降る、霰と降る。