おふねがくるよ
うみのうえのおにわへ
おひさまのしたをまっすぐに
かわいいあのこをのせて


オ ン ・ ジ ・ オ ー シ ャ ン


きみは子どもみたいにうつむいてしまった。 (無理にみちびかなくてもこの子は生きていけるよ、お節介な自分め)。確かにそうだけど何とかしてやりたい。分かりやすいくらい、単なる我が儘、毎度繰り返してる。 色とりどりの野菜とやわらかなお肉、テーブルの上に並べて、ほらおれは料理人だよ、ほらきみは賓客だよ。って。
不釣り合いなほど大きく鋭いフォークは、きみの小さい口に出入りするたびおれをひやひやさせる。そのくせ、血の色を見てみたいとも感じる。きみはそんなおれを知らないだろ。とても単純な魔物だよ。臆病な心臓はエプロンの下に隠してある。
シルバーに磨かれた曲線に海と空を映しながら、きみは揺らしている。色のない光を。 何があったかは知らない。何があったかなんて、ほんとに知らない。きみだけが忘れずに、でも誰にも打ち明けられずにいる。 グラス一杯に注いだ水は、海水でもなければ毒でもないのに。きみはそれだけを口にしない。
「どうしても、まだこわい?」
何がしたいの、おれは一体。
きみの目線がグラスの水とおれの顔の上を往復する。しばらく見比べ、きみはようやく決意すると思い切って一気にグラスを仰いだ。無理をするから空気まで呑み込んでいる、きみの白い喉は赤ん坊みたいにこくこくと鳴った。空にしたグラスをテーブルの上に音を立てて置き、きみはおれに微笑んだ。
「マジマが出してくれたものだから、こわくない」
おれはその言葉を代替として、お会計は一切いただきません。
「うん。さあ、こっちも食べな」
泣きそうだ。

海の上の庭園。

おしゃべりをたくさんして疲れたら、ちょうど迎えの時間だ。帰り際に、磨いた貝のネックレスをあげる。水を飲めた記念に取っておくといい。 おれの指が首に触れる時、きみは少し泣いたね。 そのままきつく絞められるんじゃないかとこわかったのかい。 それとも、そうしてほしくて泣いたのかい。 もしもそうだったら、もう叶えてあげられないんだ、ごめんな。

それは、ずっと前に、やめたことなんだよ。

「たまには帰ってきて。ほんとはみんな、マジマのことすきだよ」
やさしいきみのことだから、そんなの嘘だ。
波の上ではきみ専用の小舟が待機していて、別れを急かすようにもうスクリューが回転を始めている。分かった分かった、ちゃんと無傷で返してやるから大人しくしな。舟の分際で生意気なやつめ。廃棄物にするぞ。
「さよなら、きみ」
腰をかがめていとおしむ。その耳を、いいにおいのする襟足を。
例によって小舟がばちゃばちゃと海水をかけてきた。
「さよなら、マジマ。またね」
「・・・何笑ってんだよ」
びしょ濡れだな、と云ってきみはハンカチーフをくれた。「悪気はないんだ、こいつだって」。それから小舟に片足を掛けた途端、スクリューがフル回転、きみは大慌てで操縦席に座る。操縦の必要なんてあるのか疑わしい小舟はたちまちきみをきみの戻るべき場所へ持って行ってしまった。ハンカチーフで顔や体を拭きながら、おれは街の方を見つめた。「またね、か」。だけど明日になればきっともう、迷わずには辿り着かないね。残念なことに。
「さて、と」
久々に一服しようかと思い、ポケットから貴重な煙草を取りだした。哀しいほどにすべてが湿っていた。絶滅なさった。残念なことに。
「あの野郎・・・廃棄決定」
冗談じゃない。これからこの庭園は長旅に出るってのに。 どうしたって一番近場のあの街まで買いに行かなきゃならないじゃないか。