「森」

誰に砕かれたのだろう
原型はどこにも見つからない
ひとつずつ拾い集めてぼくは泣いた

枝にひっかけた皮から汁が滴る
これはまだちゃんと赤い
そして痛む

会いたかった
さがしていた
君を知っていた
ずっと会いたかった

光がどこにも残らなくても
似たような茂みばかりの暗い森で
あのとき何も
あのとき誰も
残酷じゃなかったよ本当は





「銀河」

ぼくたちはまだ一度の終わりも知らない

終わり、それは始まり
痛みも癒しも
本当はどこにも存在しない

交わし合うことばは足下の砂地にしみて
星の裏から銀河の中へ
あお色のひかりになって零れるだけ

宇宙はいつもなにか呑み込んでいる
だからそれだって
永遠に残る証にはなれないけれど

まだ幼いあのきらめきは
君の
ぼくの
まなざしの先にあるよ





すきだよ
赤いくちびる
愛はまだいらない
何か歌って





「箱庭」

余命短い子どもがナイフで
猫の首をゆっくり落とした
ぼくはそれを黙って見ていた

ここには空がない
視界を埋め尽くすほどのいばら
そのむこうが
青い空だという保証はない

ぬくもりはいつか裏切る
おびえた顔をしていた
きみだってそれを知ってる

ぼくには理由がない
ころしてくれるなら
だれでもいい





誰か祈りを
あたりまえ以上のことは
何ひとつ望まなかった
誰か祈りを
もう動かないふたりのかわりに

月と太陽が光と影をつくり
からだは子どものまま形を失う
くだものと同じ
そうあのりんごと同じ

まだ棄てるのかい
もうじゅうぶんだろう
芯だけになるよ

それでもまだときみはゆう
足りない
まだ棄てたい
きみはいつか
きみの体から離れて
神さまの思惑を超えたい

名まえを呼んでも
ぼくが傍で泣いていても
答えることもなくなる
予感は残酷にもいつか的中する

骨を
血を
あきるほどに
きず痕を

ぼくが
絶え間なく
なめたところで





「童話」

ごめんなさい
また壊した
さわろうとしただけ

あなたに知ってほしい
この願いのために
もう何も叶わなくなったとしても

目隠しして
脈打つ心臓を掴んで
そのとき掌だけが知った
本当の世界を教えて

神さまは本当にいるの
楽園はどこにあるの
ぼくはどうして残酷なの

花は赤いの
猫は黒いの
あなたはぼくの
何を泣くの





「焼け野が原」

殺人者をにらんで
くたばれとつぶやいて
世界中でぼくたちは泣いた

かえる場所なんてなかった
あの時ころさなかったなら
妊婦の腹を撃たなかったなら

どうしてこの世界には
銃や小鳥が
雑然と存在しているのだろう

神さまなんていないのに
お祈りをしたのに





「ジーザス」

最後の祈りを終えた夜
ふと存在にきづいた
ぼくは泣きそうになった

みつけた、
神さま、
おまえとってもきれいだ、

ちゃんといきている
赤い血は
まだあたたかい

涙に汚れた舌でぼくは
あなたの輪郭をゆっくりと舐めた





「幸せなら」

誰でもいい
君が笑って幸せなら

哀しみの夜はやがて星になる
輝きながら愛されながら
夜空へ零れるんだ

小さかった手の
たよりなかった細い指の
わずかな隙間から

(さらさら、さらさら)

それは
白いシーツの狭間で揺れる
懐かしく甘い
うたごえに似ている
やさしい
ただ
やさしい

俯いて祈るだけの時間
黙々と何かを否定する時間
かと思えば
抱き締めたいものを
抱き締めたいだけ
抱き締める時間

どの時間も同じぶん
望んだぶんだけそこにある

みなさんお気づきのように
この世界は
ぼくらがどう望んだか
ということの結末でしかない

だから誰でもいい
君が笑って幸せなら
ぼくは喜んで
繋いでいる手をある日とつぜん
静かに放したりもするだろう





「てのひらの瞬き」

破片はどれも覚えている
懐かしく大切なものに見える
だけどこの手は小さい
すべてを持って行くことはできない

濁ってしまったものから泣きながら棄てる
息をするものを選ぶ
微かでもまだ光っているやつを

追憶だけで歩いては行けないことを知った
(追憶なくして歩いては行けないということさえも)

妄想であっても構わない
あらゆるものに意味を与えることは
きっとできないから

立ち上がるだけだ
この足が平気な限り
微笑むだけだ
幸せが何かを本当は知っているから

握り締めて確かめる
たった一つになった、てのひらの瞬き
ぼくは生きていた
あなたは優しい