才能
迸らせた痕跡を
誰に伝えるでもなく
一瞥をくれたら
その場ですっかり消してしまえること





いったいこの僕に全体
反芻の意識が無いのかあるのか
花の蜜で皮膚が爛れる道端にて
爛れた皮膚を見ていて道順を忘れる
誰に会いたかったか
会うべきだったか
心など軽いもので
目の前に黒いつま先が表れたら
きみかと笑い万能の二人称で顔を上げる





「アングル論」

吐いたら振り返らない
視界は世界の縮図
白い雲の向こう
飛行機がよぎる
墜落するジェット
飛行機にしてみれば
地上でぼくがよぎる
這いつくばって頬を汚す





「流跡」

水を
誰かが
屋上から零したのだと思った

それの
反射が
太陽を照り返して一瞬煌めいたと

花は添えない
きみはすべてを持っていたのに

色褪せもしなければ消え去りもしない
真夏の景色はとこしえに奪われていくから

すべてを持ちながら
きみを羨ましいと云った
きみの正直は今ここにある不在で証明される





微かだが意思を持つ植物が行き先を知らしめてくれる
棘による傷はその他の緑によってただちに癒される
美しく生まれなかったことを嘆く生き物はここにはいない
湖に浮かぶ体に種々の蝶が群がり羽を休める
波の無い水面のどうやって中央へ浮かんでいるのだろう
すみれ色の肌に疑問も正確も求めず僕は巡り続ける
緑は意思を持つことを忘れさせるように帰り道を教えない
もう森へなんか行かない
声は自分の内からと外からどちらから聞こえたか定かでない
でももう森へなんか行かない
罪を犯したもの特有の仕草で掌を見下ろすと色の無い菫がただある
湖面の死体はいつになったら腐乱を始めてくれるだろう
もう森へなんか行かないと
誓った僕が見つめている
青空も緑陰も余すところなく映し出す水面に
白い異物がやがて溶け込んでいく
その光景は僕を絶望的に慰める





振り返ることもなく
妬みもせず
受け容れるものだけが増える

幼少の
記憶だけで生きた
被虐の犬に似ている

慣習は
時流に
蹂躙される

不変を決めた二色は
片割れの不履行で滲んでいく

また何を望もう

慟哭の中にさえ祈りがあるなんて
誰が誰に云っても嘘かも知れない

潤んだ庭に紙が散っている
誰かが書架を荒らしたのだ
ちぎられた頁はいつも同じだった
疑念を捨てた弱さを恥じた者の犯行か

信じる思いはいつも
裏切りを期する心でのみ構成されうる

それを忘れた者から人は
順繰りに幸せに老いてやがて逝った





「桃源郷」

夢の中で否定したものは
現実でもやはり否定するだろうか

見たこともない花の連なり
どんな生まれたてより生まれたての
柔らかく淡い花弁の触り心地
薄桃と黄色の境目を掬ったような

孕んだものが何であれ
僕は水面を覗き込む気にはなれなかった
もし体が天体なら
暗い屑が下腹のあたりを渦巻いていた

微笑みが行き交う通りを俯いて歩く
世界がどんなに七色に輝いて
あらゆる仕様で手招きしても
俯いて歩くことでしか生きられない
拒絶することをやめてしまえば
本当は何も無いこと知ってしまうから
贅沢と呼べるものこの僕に残らなくなるから