「ある町の丘の上」

夕暮れは星座町
塀の上に手が届いた
やがて夜も映ろう
落ちぶれた水たまりに

煙突を何かよじ登ってる
よく行く銭湯の天辺付近
道行く人は気がつかない
あれは蝉の抜け殻みたいだ

大切な比率を失う
とてもおおきいもの
そしてひどくちいさなもの
この目以外にもそう見えるのか

線路を電車が流れる
ストローの先みたいに
それは誰かの体内に繋がっている
ぼくは違和感を嚥下する





どれも好きで捨てられなくて
殴られて飛んで涙は放物線を描いた
あと一度の吸引力で「もっかい」って
赤い瞼の下から独裁者に微笑みかける





「共犯」

夜に気が触れた子猫の目
青く輝く
闇の星より丸くそれは丸く

液晶が正体を流す
世界の
いずれぼくの

墓標も無い土に埋めたのは
何だった
誰だった
でも誰だって
何だって





「清流」

戻りたいと火をつけた
緑は拒まないことで永遠に罰する
入水はどうも難しくて
上流から従姉の笑い声が聞こえる
下駄が流れる
帯が流れる
簪が爪が手が目が
流れ流れてまだ誰も知らない海へ行く





「十四歳の奇跡」

百年も百世紀もそんな変わらない
まだ存在していないものも早く生まれろ
そして早くくたばればいい
生まれた数だけ消えていく絶対
果てではなくそれは日々の中
かわいそうな幸福の塊たち
冬のプールに光は宿る
そして次の夏を待ちぼうける
捨てられた手紙
音符に記された遺言
あの夕陽こえられたら
きっともうどこへ行かなくて許されるのさ





戸惑えないでいるから
自分で壊す
レモンスライスの浮いた
水面下で小指近づけた
いつだって夢の中
真夏にはいつだって





百年いらない
百年もいらない
奇跡が近づいて遠ざかるのを
彗星より気まぐれな
一瞬のきらめきを
きみとぼくとは共有している





昆虫図鑑
銀河つらぬく光
手の上のダニも
名も届かない遠くも
みな自分に属する
神知れずぼくの血は熱い





七のつく夜
お寺の中で破られた
満月は届きそうに近く
恨めしいほど遠い

分かって
それを
手を伸ばせば
青い羽は裂けるの
だったらきみはもう飛べないの

美しく泣くひと
それは
その美しさは
悪人なんかじゃないって

今夜ここで何も起こらなかったわ
だから羽は今も青いままだって
わたし秘密でいるわ
不自然な満月に誓ったっていいわ





「ドライバーズ・ハイ」

烏に乗られた風見鶏
パンクしたタイヤが失速を引き起こす
追っ手はいまだ夢の中
ひと夏じゅうトランクで誰かが揺れ転がっている





海が消える
森が消える
色が消える
魔法が消える

海を知ると
森を知ると
色を知ると
さみしいを知ると





「聖域と禁猟区」

祭壇の布地は輝く
選ばれた贄の子に
人は畏れを求め
与えられない

命あるものの不平等
舌の上で聖体は温もる

命ないものの平等
陽射しに将校は眉を顰める

かつてお前は私だった
云って誰が信じよう
お前は今日に死んでしまうから
そのほうが何故でもずっと優しい





孤独の源を辿っていくと
ぶどうの森にいつも行きつく
その風景は僕の故郷にない
母や父の故郷にもない
複雑な蔓
安易な実と葉
お葬式があったんだ
僕の知らないけれど
きっとこの血に生きてる誰かの
ぶどうの森で
誰も知らない国で





「失敗」

裏切りを嫌い
博愛を蔑視し
やわな生き物に成り果てた

絶えず緑陰を踏みながら
止まず水に浸りながら

まるで生まれるようにまた蘇る
世界へ吹き返すこの息
否が応にも夜に向かい煌めいてしまう





「どこにでもある」

一瞬の期待が
永遠にこの生を引き延ばす
途切れながら
飛行機雲は西へ向かう

光の矛先
この距離があるから
指で象る枠におさまる
絵画のごとくにもなろうよ

追憶につきまとう笑い声
自分のものだけが聞こえない
夕暮れに染みてゆく
かごめかごめの遊び歌

家で兄が首を吊っている
その犬が無人の庭で
子供を待って寝入ったように老衰している