「子どもたちの懺悔」

午前四時の短針
何かを呪うこともなく
君は古いひかりに還る

愛していた
そしていつか
僕を忘れるんだろうね





もてあそばれた子どもが静かに眠る
青い毛布はまだあたたかいと信じて
もう息をしないままで





「美食家の憂鬱」

口に入れてはすぐ戻し
投げたフォークは鳥になる
舌打ちすれば泣きそうだ

コップに水を注ぐガルソン
とうとうぼくとお前だけ
思えば食卓は静かになった

鳥になりたいとは思わない
ただフォークは確かに羽ばたき
ぼくとお前は残されたんだ

水槽を泳ぐ二匹
まだ二匹いる
魚に舌はないのだろうか

でもそれはまたべつの呪いかも知れない
生きるから生き物を頬張る
どうしてもそうなのだろうか

明日はぼくを食べ残さないで

060106





「きず」

2ページにわたる蘇生法
黙って繰り返す初雪の朝

窓の外に逃げ場はない
だからってここも正当でない
生き物がいる以上、刻々とひずむ

響きながら無数の瓶が輝くよ
どれかがきみを救えるはずで

つまり
本当はきみを救えるはずで

だけど異論を唱える第三者はなく
いつか故意に毒殺するかも知れない

051123





「鳥」

わすれられてしまった
波はぼくを置いて去った
砂浜にはきれいなものしか残してはいけない
その掟を知らなかったから

立ち上がろうとして手を切った
この目が異国の破片を見つけた
そうだ、まだ知らない楽園がある
見たこともない鳥が上空を旋回する

血はしとどに
ライナス、きみを汚すから

もういっそその羽毛に吸い上げて
だれも見たことのない鳥になって
ぼくのかわりに楽園を見ておいで

わすれないでね
わすれないでね

050823





「ひぐらし」

秘め事のような古い聖書
何遍もきみに読み聞かす

肺病の背に手を這わせ
神様はぼくじゃないと囁く

たそがれどきの大樹
夏の帰路に影は長く伸び
ぼくのまだ見ぬ年輪
病む赤い血はそこを流れない

だから
きみなのだ

閉ざされた六畳を照らしていた
勿体ない量の光を溢れさす電球
その下にあって頼りないあの体こそが
やはりきみなのだとぼくは思い返す

明日もう昇らなくても良い
ひぐらしに濡らされたなら
さあしくしくと落ちてゆけ
役立たずの太陽

050812





「きいろい」

呼吸さえやめないと云うなら
ぼくはきみを泣かない

カナリヤ
ねえ、きみをすき

ずっと何もきこえなかったから
ずっときみだけおぼえていられたよ

050809





ぼくたちにとって
確かなこと

何にもならない
どこへもゆかない

それ以外に
何があるっていうんだ

おかしいね
信じていた

何かになるって
どこかへゆくって

050624





「理科室」

理科室は甘いにおいがする
忘れられたビーカーの底には
腐乱途中の魚が沈んでいる

小さいのにちゃんと整って
幻のように繋がっていて
白みゆく肉は穏やかで
そのとき考えた
ぼくはどうか?

ぼくは
汚い

光をつかまえることができない
心からわらったことがない
もう子どもにはならない
魚にもならない
なれない
まだ何でもない
ぼくのことを誰も知らない
知っているのはただ
ぼくの名前だけ

でもこわさない
ぼくはこわさない
水と光だけが満ちていた
ビーカーの底にあったあの永遠を
魚の顔をして横たわっていた沈黙を

夢は見なくてもいい
血があふれてもいい
心臓がとまってもいい
化石のように眠りたい

アンモナイト
ムールロニア
そんなものと一緒に
甘い棚に並べられて

どこにも終わりなんかない
時間は流れてなんかない
ぼくはずっと眺めていた
きみはずっときれいだった

理科室で眠る
ぼくはずっと眠る
誰かに見つけてもらえるまで
いつか化石になるまで





「おはようチーター」

チーターが走る
黄色と黒色だけになって
見えない何かを追って

あいつらは
あいつらは
同じ高さの水平線を見たいって
顔とかお寄せ合って
頬とほほ擦ったりしない

食べたいから追いかけて
潤わなければ死ねるんだ

隣で眠るきみを
初めて他人だと思った


獣はテレビの前のぼくたちだけ

何年も
もう何百年も
乾いているのに死なない