あふれてしまいませんように
あさましくないものたち
みにくくないものたち
いがみあわぬりこうなものたち
そんなものでこの世界が





新しくなりたいと
死ぬことを重ね

汚れてみたいと
産まれるを重ね

今つま先から長く伸びる影
誰もいない廊下に無数のドア
(鍵はすべて壊されている)





翼を夢見る者たちに
不便な羽など寄越してしまおう
若さと愛
無血革命に殺されてしまう前に

人は信じない
人はそれを信じたがらない
立派になるのだよ
幼さを放擲して途方に暮れた
影がささやかな呪いをかけるみたいに云う

だから僕は翼を要らない
だから僕は輝きさえ欲しくない
何も語らずただそこにあるものが
それだけが
僕にすべてとは何かを教える
向き合うに足る美しさや醜さを伝える





異国の曇り空
青と灰色のどちらでもいい
ボールをつかみ損ねる子ども
太陽が緑色に濡れている
ここではないどこか
今ではないいつか
君の声に呼ばれた気がして
この街を五分後に僕はもう旅立つ





グッドモーニング
赤い目ざまし時計の
あるこの部屋より近い朝
遠くで百年のお祭りが幕あける

空に気球がひろがっていく
河川敷だと
そこは河川敷だとぼくは
ぼくたちは五つの頃から知っていた

舞い上がれ
今だけは
星をふりほどいて
今だけは行ける

あの人が亡くなったのだ
赤い血のあの人
何かになれるよ
それはもう遺言だったのか

こんな朝に
捧ぐ比喩はどれもみな拙い
といって
ただ述べても芸が無い

語ることはできない

パンケーキがおいしい
学校へ行けない
ただこうあることに
沈黙という舌で紙を舐めてる
切れた回線があなたの血を流し木の床を濡らす





繋がりに負けて
言葉が文字に戻っていく
引き離せ
甘やかして挙句
殺してしまう者から
(或いは者達)
幸福なベッドで眠りたくない
一夜だって
星が降っても
僕はね





昨日と今日とで全く違う
見えている夜や景色も
ほかのことではないんだ
視界は確かに歪んで硝子が重なっていても
何のために時は進むのか
一瞬の位置にとどまらないか
難しい顔して考える以前より明白なこと
忘れてゆかないなんて美しくないから
美しくないことは死んでいることだから
産まれたことに気づけばあとは生きていけばいい
拒む人はいても拒む光はどこにもない、いない。





ほどけた
どうして
どうしても
じゃあ点けるよ
だめだ
さっきと違う色だ
分かるの
うん、ぜんぜん
でもだれも悪くない





よかった
愛している
完璧を増やさないで
死に絶えてしまう

空は金色が嗅覚する
わずか一夜の生命
すべてすべて解けた
まちがいに触れた

見えなくていい
文字を読むから
血液が行間を邪魔する
僕の黒猫は発狂した飼い主をただ見つめる





おまえの腹に耳をくっつける
今にも何か産みそうな
万が一にも裂けたなら
目を覚ましてくれそうな縫合跡

裏切られたと云って
おまえは少し怒った
二人がまだ学生だった頃に

耳の下で縫合跡が
巻き貝のように泣いている
海だよ
太陽を撃ち落とせるのはいつだって
だった海だけだろう
太陽の姿を余すところなく描写して
なおかつ
その色で世界の半分を染めるなんてさ

おまえは喋り続ける
ちっとも苦しくないかのように

針が皮を貫いた時
おまえはじっと息を止めた
糸が針を追う間
おまえは目の前の鏡を睨み続けた

数々の思い出が
どうでもいいものが黄金だった
だってあれは
戦禍じゃない
いま
この耳に触れる傷は故郷でついた傷
遠く言葉も通じない
人を殺すために訪れた異国じゃない理由

まったく同時にとはいかない
しばらくでも残される身はふがいない
それをおまえに見られないで済むことが
おれの生涯で一番の幸福なんだろう

あの時おれも目を瞑ってやるべきだったな
今さら気づいても遅いだろう
形の良い歯が唇を噛み切りそうな様子に夢中で
貪るように見入るだけだった
冷たい針がおまえの生きる皮をくぐり抜け、少しだけぬるくなるあの瞬間に。





さがしもの、
どうやらここでも、
手に入らないらしいな、

美しい子ども
街を抜けていく

赤く腫れた咽喉の粘膜
誰の子守歌もうたわない

絶対を抱え
どこかへ去っていく
美しい子ども

地面に垂れた手
誰の手もつながない手

歩いて行く
どこか遠くへ行く

美しい子ども
脱臼した両腕
たったひとりで
病んだままで





順番を待っていたら
行き先と関係の無い列だった
夏祭りの夜みたい
どこに立っても迷子