さらば流血のエチュードよさらば





あたたかくなければ
流そうとも思わなかったよ
正反対で不埒だ
死ねとも生きろともいえる
すべて流れ出させたとしても
花の一生もさいごまで養えないくせに
いなくなるまでどうして朝を始める
泣きもしないで笑いもしないで





あした、ふねにのせよう
あなたは南の島へいくのだ
別名を楽園というのだ
名前を変える必要はないのだ
だけどあなたはもどってきた

あした、きしゃにのせよう
あなたは北の国へいくのだ
別名を楽園というのだ
瞳の色をからかわれることなどないのだ
けれどあなたはもどってきた

あした、うちゅうせんにのせよう
あなたはここを離れるのだ
別名を楽園というのだ
ぼくのことで咎められないのだ
そしてやっぱりあなたはもどってきた

あなたはもどってきた
何度も
何度でも
どこへ行くよう指示しても
脅迫みたいに
とじこめても
願っても
祈っても
わめいても
あなたはいつも

そんな価値はないのにといった
命は大切にされるべきだ
あなたは真剣になるほどぼくを笑った
ふたりぼっちで閉じ込められても
あなたはいつもこの世界を美しがってやまなかった





「引き金」

また傷つける
ほら形相が変わる
何回も見た
何回も知った
きみは笑う
この冗談が冗談であるうちは





冬の雨の朝
乾いた室内
空になった瓶
真新しいラベル
寝顔に似た表情
太陽がのぼれば柔らかく
悲愴は消え失せ
うつくしい光景
うつくしければ
どうでもいいやと思った
手遅れになっても
ぼくが忘れないから
忘れるまで生きているから
真新しいラベル
空になった瓶
乾いた室内
冬の雨の夜
おやすみを云える相手の
不在
どうしようもない
不在だ
これは





「理想の密葬」

誰にも何も云わず死んでいったあの生き物の気持ちがやっと分かった
濡れた肌が凍えるのを流れ出る血でしか温められなかったんだ
すでに降り積もった雪は異物を体内に埋没させまいと拒むが
新たな雪が些事に構うんじゃないと窘めてぼくら二人の密葬は果たされる





「維新」

今はもう
何も知らない頃ではない

風に吹かれた砂塵を
はりつけたまま閉ざされる眼球

閃きに託す時間など持ち合わせない
壁の向こうから異国の歌が聞こえてくる

男のような女のような
生物か無生物かも不明の



壁の暗い向こうから聞こえてくる
異国の言葉でも理解ができる

ぼくの、ぼくたちの自由は
自由という言葉によっても支配されないということ
望んだものがそのままぼくたちであるということ

きみの目がひっそりと澄み切っている
たくさん人が死んだあの夜みたいに
割れたガラスに降り注いだ雨と虹、きれいな



確かめ合ったぼくらは緑陰を抜けると真っ先に太陽の下へ
分断されなかった恒星は国境からも鉄格子からもはるかから照らす
いくつもの禁忌をものともしない快感に胸焦がすぼくらを無条件に照らす

新しい時代
新しい未明





溢れているのに溶けだしていかない
生成されて輝いているものも取り上げられない
目に浮かんだ憧憬がいくつも
挑発のように皮膚を穿とうとするけれど
同じ夕陽をぼくらは持たない
知っている傷跡はもう癒えてしまった
降り積もる雪は視界を覆うには足りない
壁一枚隔てて殺害は繰り返されるけれど
愛し合わないぼくらにはそれだって否定ができない
歪んだ枠から流れ込む風の音を誰かの口笛と聞き誤るだけ





幾筋も幾筋もの旋律が
ぼくを追い越してゆく

転校生のスカート
まとわりつく蝶の羽

呪いではない歌を
唇に
暗闇ではない光を
瞳に

衝動をくれ
眩暈をくれ
掌より体に
深くに
傷つけるように
裏切りのように

音よ音符よ五線譜よ
今夜にもぼくは生まれるよ
夢の空だって晴れているよ

こんなにも
ほら
あんなにも
ほら





「アンドロメダ」

腕がいっぽんとれてしまったよ
おまえはどうしてこんなに脆い

驚きあなたはわたしを責める
問いではないから導き出せない

脆さを備えず存在できる世界がどこかあるというならば
少なくともここでないのよ

腕を拾って微笑む
もう二度と肩にくっつかないけれどあなたを変わらずに好きでいるんだ

わたしにとって不足して困るものは
落ちた四肢のいっぽんなどでは決してないのよ心配なんかなんにも要らない





夕陽の沈澱
ビーカーに居座る深海
頬杖はだらしなく崩れた
逆さまになるぼくをきみが見ている放課後