ぼくたちは知っていました。永遠を錯覚するほどの当たり前が本当はどれほど危うく脆い奇跡を犠牲にして成り立っているのかを。だから壊しました。だってそんな偶然をどうして事故や第三者の悪意などによって破壊されて平気でいられましょう。ぼくたちは知っていました。何も大切にできない手をぼくたちがそれぞれ持っていて決して捨てられないことを。ぼくたちは知っていました。幸福の無い辞書を携えた手を。その体温を。





僕が決めたのだ。生存宣言。夜はこんなに明るい。きっと今日も生きているのだろう。





少しでも恵まれそうになると、そうじゃないんだって逃げだしたくなる。ずっと嘘をついている。形式は覚えられない。人の顔も。だからあなたに出会ったのは今日以外のいつでもない。空にかかる虹よりホースから零れる七色を愛する。きみにとっての一生の長い時間が、ぼくには三度の瞬き。なぜ死んでしまうの。海が光っているのに。





それまで風の音に紛れるくらいささやかだった賛美歌が急に鮮やかに聞こえてきた。遠ざかっては近づき、近づいてはまた遠ざかるそれは、あたかも誰かの細い指先で編み上げられたフーガのように、ぼくたちの出会った教会の裏庭にいつまでも流れた。





尽きていかない命を恨んで死に絶えるものに優しいまなざしを送る。流し目がとらえる赤と黄色の炸裂は柔らかな土の上で未来の新芽を育む糧となる。





知れば知るほど手離したくなる自由の正体を、ぼくらは今でも日に三度は舐めては睨む。鉄格子は人々の抱擁を阻むが、革命の風までは阻めない。





過ぎ去った時代の写真の中で今は生きていない少女たちが寄り添って、何事かへはにかんでいる。三姉妹だそうだ。背景に写る建物は見覚えがあった。今はもう瓦礫でさえなく深い海へ沈められた。





異常な期待のなれの果て。でも使い切ってやる、正体不明の愛で。





回線が混在している。伝えられたはずのメッセージ。五文字に満たないのに五億光年先まで果たされえない。ねえ、会えない。





破壊した時計の長針と短針で食事した。窓の外を灰色だか鈍色だかの河が流れる。海はまだ青いか。この星はまだ青いか。青いきみの目は部屋の隅で瞼に閉ざされてしまったけれど。





忘れることは困難だったが忘れていくことは容易かった。思い出すことも無ければ記憶はどこへ行ったのだろう。この世界のどこかに保管庫があってすべて覗くことができたならばきっと死んでしまう。百年後まで死んでしまおうよ。





最初に消えたのは主語だった。そのあとに助詞が、副詞が、やがて全部が消えていなくなって夜はしんと静まり返り、互いの背中を黙って引き寄せあった。





僕が消えて泣く人を数える夜。笑わず交わすおはように感動も無いことを知るこの朝の平和。トーストにブルーベリーとチーズ。たっぷりのミルク。





絶えず吐いても夜はまた明ける。朝を望むふりをして次の夜を待っているだけ。息継ぎのように断続的に眠るためにまた目を覚ますだけ。あたたかい人の冷たい目を知っている。誰にでもやさしい、あたたかい人の。この世の朝と夜を切り替えるスイッチである夕刻みたいに、ふとした瞬間に見せる眼差し。信じようとして失敗した者の目だ。何も信じないことをよりどころに生きる者の狡猾な視線だ。





狂っているよ。あの子、狂っているのよ。丘の上のあの子。甘いものばかり食べてる。こどもを卒業できないでいるのよ。あのまま年ばかりとるのよ。なんだ、ただの幸せじゃないか。絶望もしないでいていいのね。悪意のない噂話。遠く鳥の姿。世界は夜へと流れ込む時刻。うまく生きられないものばかりだ。ぼくは彼らに恐がらなくていいと云おう。





途切れそうになる言葉が千と一文字。消えていってしまったものが同じくらい。たった百文字を書き残して力尽きるが、その裏に一億、そしてそれ以上の何かが秘められている。ここに触ってください。





空を見上げたら視界に入る四つのビルがピンクの夕焼けを背景にしていてとてもきれいな秋だ。建設途中のむき出しの鉄骨も窓に反射する信号機も各部屋の照明の色がまちまちなのもすべて美しい。人間というものも、そして彼らが作り出すものも自然の一部じゃないか。人工は天然に劣らない。





器用な手口。器用な手筈。器用な手順。どれもこれも自分に無いもの。西の空が光を放って東の空まで赤く焼け焦げる。それから香ばしい夜がくる。私は何にも属することができない。いえ、できなかった。明日が世界の終わりでもあなたを嫌いでなかったことを認めたくはない。嘘吐きでいいのさ。