「スーパー・スター・ルーム」

踊りのように振る舞うことができない
何も語らせなくてすむのならぼくはどんなにかもう少しまともな人間だ
しかし彼等はぼくの欠けた部分をどうしても見たがって媚さえ感じさせない微笑みを浮かべる
語彙が少なく丁寧な言い回しが思いつかないからぼくはひたすら黙って嵐の過ぎるのを待つ
ぼくは黙りこくる
ファンの子にもらって以来、部屋で飼っている菫色の貝のように
フラッシュが焚かれて夜空の星が見えない
どうしてそんなに輝かせようとするんだろう
それでも爆弾よりはいいと思えというのか
美しいものを与えようとしない世界へぼくは溶けてしまいそうになる
だけど異物としての芯は骨格の中心に残るから
溶けてしまいそうだという危惧は結局は溶けてしまいたいという、
だけど溶けきれてしまうことはないという確信への呪詛とか駄々みたいなもの
弱みすべて言い当ててしまった憎き小説の野郎を壁際に投げつける
それは当然の結果として貝の眠る水槽に落ちる
一度も動いたことの無かった貝殻が水底で跳ね上がって砂を吐く
ぼくの瞳はきっと菫色に光った
アパートの下で瞬いているフラッシュが照らし出してこの部屋中が銀河みたいになってる、いま





「秘密」

百年
それは千年より長い
千年は一瞬で過ぎるから
借りた教科書のすみっこで
比して百年ならぼくも生きうる
だから実感として百は千より長い
つまりずっとのことだよ

同級生はきらいだが
彼等が嫌う教師を好きだ
それを云うとひとりになるけど
いや云わなくてもぼくってやつはずっとひとりなんだけど

チャイムが鳴れば机にふせる
彼等は窓際を好むけど
むきだしの空が近いなんてぼくにはきっと耐えられないこと
耳元で絶えずシンバルを力いっぱい演奏されるのと同じこと

空は手に入らない
窓枠があってカーテンがあってその下にどうでもいいものがある
まどろみの中でも視界にはそれだけしか必要がない

背筋をきちんと伸ばして
もともと必要じゃない眼鏡をかけ直して
誰から見たって何の接触もありえないぼくらは静かに目配せをする

それだけでいい
それだけで百年先だってきっとちゃんと呼吸ができる
きみとぼくのどちらが消えても秘密の記憶が酸素を与えて





「ヘルシーメルシーマーダーナイツ」

始まった夜
これが永遠の繰り返しじゃないと
単調なループなんかじゃないと
確かめる方法なんかあっただろうか
必要と動機についてもそう、
そんなものあっただろうか鞄の中とかに?

トースターの中でパンが焦げる
新しい瓶を開けてジャムをすくったら
小麦の故郷へ明日は行こうとぼくは思う
ジャムのきみをポケットに入れて
ありがとうって云うんだ

どうもありがとう
毎晩毎晩ぼくを狂わせにきてくれて

健康な殺人者の悩ましげな繰り返しの食卓
はるか頭上で流れ星が夜空をひっかく
宇宙の臓物は世界へしたたり人々は頬を染める
長い夢に揺られながら潮の引くのを体は待ってる

ヘルシー、メルシー
体は待ってる
ヘルシー、メルシー
輝く小麦にならぼくの声が届くかもしれない





壊れるものは音を立てないこともある
水のように少しずつさらって
ある朝そこに砂浜だけが残っている
隠したいものを埋めた場所はどこだっけ
(そもそもそれってなにだったっけ)
たまたま暴いてしまった別の秘密を
やさしい気持ちで埋め直して大人になる
かわいそうなきみの手のひら
撫でているぼくはもう息をしないのに





「ひとりぼっちR.P.G」

整列する椅子の教室で
佇んでいるあなたは正しすぎる
潮風を受ける帆のように
黙って夕陽に浸っていく

問いかけても答えない言葉に
一種の安らぎを見い出して

叫んでも返ってこない声
感覚は研ぎ澄まされ
悪のいない世界で
ぼくらは剣先を決めあぐねる





「雪原の葛藤」

青い雪に埋もれた自分に気づいてもう半日が経つ
どろぼうの足跡は随分前に消えたろう
手のひらを翳せば太陽もそこにある
ただそれにとどかないというだけで

黒い鳥が上空を旋回する
だけどそれはぼくを外へ語らない
無能感のなかに全能感が溢れ出す
捨てざるを得なかった者たちは微笑みながら泣いている

背骨の下の土のやや下
ちいさな獣が寝息をたてる
浮き沈みする肋骨はそれを糧として明日も死なない
ぼくが語らないことを人が悟ったことはない世界だとして

遠ざかる葬列の中できみだけは気づいて笑う
ある人はそれを薄気味悪そうに見やり
ある人は素知らぬふりをして追い越して行く

しかしきみが微笑んだのは
この雪原にどこか覚えがあると思うからだけだったのかもしれないね
それでもいい、
それでもいいよ
きみはとっくに忘れてよかったんだ

眩い雪原はきみの視線の中ですべての光を一縷の例外も許さずしたたかに照り返し
昏い景色に同化したぼくの存在はあくまでも不在であり続けるという存在の方法
旋回する鳥類よ動けないぼくの視神経を奪ったまま異国の景色へ繋げていってくれませんか
無垢なはずの依頼は何度も素通りされて吹き荒ばれてさっきからずっと乱視でいるんだ
覆せない、
目覚めた時に握りしめているものが誰の骨でもそれをいまだぼくは覆せないでいよう





「天才のいる部屋」

救出は秘密を害する
乱反射が逃亡者の影を隠す
七階の窓から錠剤が落とされて散る
経血は水鳥の胸毛に染みわたる
捕らわれた自由が光を孕んで歌をうたう

隻眼の猫が窓辺を歩いて振り返る
白と黒の斑の仔だ
主人は弦を弾きそっぽを見ている
前肢を滑らせた猫は空中で翼を生やす
進化の過程は真昼に一つの奇跡を披露した

誰が話しかけても返事なんかしない
相槌だって覚えやしない
ふりかえりたい時にふりかえってただ微笑むだけ
何日も前の質問にやっと答えを寄越すだけ

主人の伸びきった頭髪が自力でベランダへ這っていく
素知らぬ指先は精巧な仕草で旋律を奏でる
這ったものは季節に触れてすばらしく白銀の色だ
捧げる宛先の無い音楽はいつであってもこの僕にすべてのすべてを物語った





ついにきみは手に入れた
何も生まれない卵と空に浮く家を
骨と星がこぼれおちる指先を
すべては思いのままだ
文字通り、思いのまま!
だけど羨ましいのは魔法じゃない
ぼくが必要じゃないきみの道がだ
ぼくを必要としないきみの道こそがだ

(生きて どうか ください)





「始まらないいたちごっこ」

飽きるまで繰り返し
嫌いになるまで好きでいる
新しいことは美しいだろうか
醜いことも美しいだろうか

湖面に見知らぬ顔を落として水鳥が飛び立つ
記憶の中でも記録の中でも人の顔はみな黒い
遠くから見ると毛におおわれてでもいるみたいだ

秘密は濃い森へ隠して
浅はかなトリックは深い窓の奥に閉じ込める
迷う感覚もなくなっていくこの真冬

僕を誰も追えない
だから僕は誰からも逃げ切るということがない

塗り続けた暗号は風化して逮捕者の行く末を阻むだけ
今にも始まりそうだったゲームは雲の死で終わりだけを叫んだ