「ぼくの理由」

きみが救われないままのこと
どこへ行っても何を見ても
救われないままいてくれること

世界はそれを見捨てろ
ちっぽけできたなくてわがままで強情な
ほらねいいとこなんかひとっつもない
恩をあだで返すようなくそったれなんだほんとうにね

雪は溶けろ夕陽は沈め
だってやっと
ぼくがみつけたぼくだけの理由だもの
ぼく以外のすべてがきみのこと見捨てろ
死んじゃうほど冷たいばっかのまま裏切って泣かせ続けろ





私達は悲しい
時々誰かを傷つけても
仕方が無いくらいに
異議を唱えて認められなくても
仕方が無いと誰かが諦められるくらいに





渓谷を抜ける風のようにぼくたちは渡っていってはいけない
不可侵を抱え込むこと単純な仕組みの枷をはずさないでいることが
鏡像世界でもあなたたちとの距離と所在を推していられる
繋がる言語を探し求めてたったひとり荒野の果てで死んだ者が
最後の体液で潤わせた土の下に眠る何百もの種を芽吹かせる
それはとっくに進化を遂げていて後はただ刺激だけを待っていた
刺激それは自分の気配それは他人の気配によって浮かび上がるということ
木も水も空も境界を解さず行きたいところへ行くために謀反を起こす
だけど渓谷を抜ける風のようにぼくたちは渡っていってはいけない
自由と名づけてしまったことは呪いみたいだけどその呪いは生命維持に一役を買ってる





ときどきすごく
きらきらしてる





「十七年、待った」

ざらざらの波が足元をさらっていく
翻弄された砂粒に混じって珍しい貝殻が打たれてくる
おまえのことは要らないと
取り残されたみたいで人間としてのぼくは目を細める
本当は間近に見たいものを少しずつしか吸収できない脆弱な神経

太陽は次の国へ朝陽を届けにいく
今日の国でのできごとはみな去る
背中から繰り返されてももはや同じでない
死んだものは間違っても呼吸を再開しない

人魚の海が橙色の橋を遠くから長く渡す
太陽の子どもはその上を歩いて渡ってくる
海面下では亀の子が今日も鮫に喰われているだろう
イソギンチャクが卵を飛ばし続けているだろう

建設中のビル群に同じ尊さを感じないわけはない
大小のクレーンが古代神殿の遺跡みたいに浮かび上がり
盛隆のきざしであるとも衰退の象徴であるとも感じずただ美しいとぼくは云える
たまにわざと何かの骸と見誤ってはしばしば正常に戻れず静かにこの世界中で狂ったよ。

誘拐を待つ凶悪な演技者体質
隣人は途方に暮れ貝殻を拾う
あなたひとりの僕ではないのだ
ただひとりのあなたでもないのだ

愚かなあなたの笑い方は少しだけぼくと似ていた
それを寝息に変えたなら明日も生きていけるから
太陽に背を向けて同じ帰路に着こう、ぼくはかえってあなたのほうを誘拐する。

ぼくはこの日を、十七年、待った。





「恋するピーマン」

いつかぼくは
きみのきらいなものに
なってしまうのかもしれない





「ふたごが産まれる夜」

紙とインクが略奪され擦り切れる
早い者勝ちの隣人戦争で
派手な色の目隠し布の
少女がランダムに形象を組み合わす

世界で最後の一個の爆弾が
鳥の巣で卵と間違われて孵化をしたその夜のこと

虹が湖に落ちた
水面はひとりでに氾濫を起こした
笹の葉のような船上で
同じ夜にぼくらは三つ子のうちのふたりとして生まれた





「氷とろうそく」

あなたは知らなかった
この情熱だって燈火でしかなかったことを
吹けばたちまちに消えてなくなる
そんな風はいつだって吹いてくることを
あなたは知らなかった
だけどぼくだって知らなかった
怯えたあなたが晒した背には
いくつもの氷が刺さって
ぼくの火はいつもあたたかだった





「陽を向く道標」

数行の呪いでがんじがらめだ
まるでずっと前からみたいに
信じるものを裏切るのはいつだって自分だ
勝手に幸せになってゆくんだ
雪にまぶした砂糖みたいに
分からなくなって
なにも
分からなくて
呆けた天才を演じるだけではもう満たされない
鞭で裂けた皮膚が額縁の向日葵に飛沫する
父母はみな若かりし
死者の頭数だけ少なくとも穿たれた道と噛み合わせ
路傍の少女が裾を抑えて失明を乞う
世界のどこからもすみっこで少年は少年に無垢な舌を不埒に這わせる





「第二世代のビッグバン」

知っている
頑なに閉じた蕾が
砕けて銀河を流産するのを

期待している
背中の羽は遠くで燻る
咲かなかった春だった

きわめて強い光
カーテンに隠れた
名前を思い出せない
日付は飲み込まれました

ばらばらが集合して再び煌めきだす
その輝きがぼくたちの昨日を照らすって
パラドックスは神妙に語り続け
成人した子どもは今もそれを信じない