贈呈する
これは対象年齢不確かな
しじまに響くカルテット1ダースぶん
ご賞味あれ





「home is here」

血の海で眠る
遮られた視界

ここを世界だとぼくらは知った
声も立てずにあなたが泣くので

そそがれたい血の海
見晴らせる天とその奥

星座は秩序によって織られた布地
それで覆われた視界
何か滲んであたたかい瞼の裏

故郷
それを世界だとぼくらは知った





噛み締めたウエハース
抜けた乳歯
おちこぼれのバレリーナ
いつか海を越える女の子





「long good bye」

戻りたい日があることは幸福だ
今ここにある不幸をそれは凌ぐかもしれない

約束を破ってもいい理由はそこにある
裏切りの前にいつも信仰があるから

神様みたいに呼んだっていいよ
遠くの空が光ってるのと同じくらい確かに
きみの手をぼくが握りたかった夜明けもあった





「no name」

誰かへ告げる予定の手紙
それではまたと書き終えて
宛先だけ忘れた、わすれた

名前を失っただけできみはもう黒い影だ
夕陽にまっすぐ伸びもしなけりゃ
砂浜を走って波にさらわれもしない

さみしい
ぼくが忘却するという行為は
きみにとって、ほら、こんなにも凶器だ





「シナモンとお線香」

量はバカにできないと思うよ
っていう持論
量に勝る質などあるのでしょうか
はしたない射程距離
縁側の天才は居眠りをして
日なたの位置さえ見誤る
両親の若き日
届きそうな肌
まるで自分のものを取り戻すように
追憶に耽り再生を願うけれど
詳細を誰も知らない
ぼくを産んだひと組の二人ぐみの物語
ありがとうっていう
時間と太陽に
ありがとうっていう
おやすみのかわりに





「spring」

なぜ断わりもなくこんなにも
美しいものが消えてと嘆くなら
今日という一日の終わりに
花冠といっしょに贈らせてくれ
それはきっと繰り返されるためだと
誰かが誰かに残した産みの喜びだと
ぼくから次はあなたが味わう
この世の最初の一滴だからと





「hello again」

途切れた電話線
やっと繋がったと嘯いて
水に映った月のような
目がもう泣かないって確信を待つ

むすんだ手と手
ハローとグッバイ
イエスとノーモア
からみあう赤と青
知られちゃならない一瞬
ぼくらが通わせる血筋の秘密
懺悔は陰湿に取り締まられる
明滅
背中に文字を書き合い笑った
絶対に消えない母国の綴り
粉々になる宗教のかけら
西と東へ駆けろ

願わくば
願わくば
境界線の払拭
さもなきゃ視力の損失

親殺しのぼく
子殺しのきみ
そもそも欺きから始まった
華麗な歌劇のファンファーレ
倒錯した大衆のシュプレヒコール
しなければよかった
遠回りなんか
信じなければよかった
欺き続ければいつか本当になるだなんて
今さら思い起こす救いようのない愚鈍
だけどもう一度引き寄せ合ってしまったら
罪だろうが禁忌だろうがおしなべて
この世のすべてがうつくしい!

神様をスペルで忠犬にして
残り物の肉を美味しいと云わせてみせる
そしたら不可侵を雪原みたいに荒らして
子どもみたいに叫んで遊べんのにさ

およそこの世界に愛情を糧に動くものがあってはならないって

そんな言葉に騙されながら
歌うみたいに
ほら
笑うみたいに
ほら





「やさしいこと」

消滅を願う生命に先手を打つこと
声調に秘められた請願に憐憫を覚えないこと
一つも問わず終わりに助力すること
それからひとりで静かに泣くこと

春が訪れる前にあと一度の雪を願うこと
寝起きの暗闇でまっさきに虚空を掴むこと
誰にも告げず日々を繰り返すこと
見えない世界に耳を澄ましてまっすぐに立つということ





「占い」

偶然以外はすべて駄目だということに気がついてしまった。期待するといけない。知識があ

あるといけない。先入観があるといけない。ぼくがきらいなぼくを好きなあなたのことが気

持ち悪くてとてもきらいだ。得体が知れず恐ろしくて理解ができなくて後ずさってしまう。

手袋をはめたまま触れられただけでいっぱいいっぱいになるんだ。何も正しく知らない目と

口、それに手。とりわけて左の中指。違法じゃなければ銃で人を撃つくらい平気でするんだ

。そんな人間なんだ。知らないくせに。知らされる目途も立っていないくせに。くせに。教

えない。あなたがきっといつかぼくに殺されること。教えたりなんかしてあげないのだ。あ

なたがぼくを好きだってことが手に取るように分かるようになってしまったら。朝焼けに似

た夜明けに起こるかもしれない未来を占ったこの結果。ぼくは誰にも絶対に口外をしないで

いよう。ただ、焼きたてのトーストに蜂蜜をかけてやるくらいはしてやる。なぜならあなた

がいつかそれを好物と云ったから。





「ボンボヤージュ」

銀のナイフで切りつけて深く悔いる
何も訴えなかったって今さら気づいて

償いじゃないけど帆に紐を通す
処女航海に備えて御目通ししたげる

森の奥を照らしたランプはもう役立たない
星降る夜を従えた朝にきみはこの街を発つ

せっかくに開いた赤い口はそのうちに塞がる
一晩眠って目を覚ませばきみはこの街を発つ

目が知る傷しかその肌に
残せなかったぼくを残して





「あの星座を真下で見る
それが叶わないなら手で捕まえんだ、ぜったい」。

きみの発言はてんで途方もなくて
ぼくはただ途方に暮れる

似た語彙を
それがルールみたいに並び替えて
限りあるパターンを一つずつひけらかしていく

鍵のなくなった鍵穴をこじ開ける悪戯を
好きなきみはどうしてそのまま大人になったかな
いたぶって死なせても微笑む欠陥はあたかも特技
すべてすべての彼等が唆されたってそれはうそだよ

もう決めたんだ
理由さがしは諦めてしまうんだって
謎めいていない世界に酸素なんてあるの
その答えがjaだとは思えないっていう ぼくの直観のせいだよ





「MITSU TO TSUBA」

きらきらの蜜と唾
すくいあげる匙
どちらかもう
わかんないし
わかりたくなんか
なかったんだ
ちっとも