ぼくたちは禁じられたがり
夕陽の中で頻繁に消える

そうか
あなただったんだ

日が落ちる前
いなくなった少年は

成長したぼくにも思い出せる
最後の光源の正体は

教えてあげたい
時は気まぐれだったよ

目を見て云いたい
ぼくら特別な命なんかじゃなかったよ

容易いことだったね
難しいわけはなかった

それを分かるには早すぎたんだね
知らずにいるには遅すぎたけど





狭い部屋の中に閉じ込められて
呼吸ができないなんてことは無かった
息の根を止めにかかるのはいつも解明と救助だった
ぼくらの方法を知っていたくせに忘れたやつらの





「グース」

悲劇は大人を雄弁にする
喜劇は子供を寝かし付かせる
同じ話でも声で別物に
おなじ星空でも神話で異なる
東西南北散りばめられた
あらゆる民話あらゆる信仰
正当性を戦わせ合って
あらゆる主張が盾と矛を持つ
武力は子供を大人に育て
平和は人から人を奪い去る
悲劇は大人を雄弁にして
喜劇は子供を寝かし付かせる
そうでもなけりゃあ辻褄が合わぬ
そうでもなけりゃあ示しが付かぬ





「週末」

耳がとまる
舌がとまる
足がとまり
指がとまる

叔父が忘れる
兄が忘れる
母が忘れる
隣が忘れる

意味のないもの
意味のないこと
意味が何かなど
探さないで良かった

月日が流れて
景色が流れて
過去が流れて
約束が流れて

すべては後方
はるかな軌跡
連綿の先端
全体の一部

疑いながら
嘲りながら
企みながら
やってみてよかった

傷つけあえてよかった
痛みがあるからよかった
同じように分かる日がくるから
今いる二人が僕らでよかった





すべて落ち着いた
嵐の後で
やっと見つけたと掴んだものは
あなたが何度も言い聞かせていて
ぼくが信じずにいたものだった





分かりづらくない自分を憎む
ブルーのケープのあなたは知らない
閉じ込められた年の数だけが
後に放つだろう輝きのこと
風に踊る砂
地を這う初恋
けがれを望むその尊さを
ブルーのケープのきみに教えない
だから今もまだきみだけ知らない





「春の海」

へりくだった優越
善良な市民
モラルの陰で
悪夢は分配される

都会を抜けて
電車を降りて
階段を見つけて
端へ向かった

見覚えのない砂の坂
懐かしがる虚栄は虚無を示す
誰が云っても正しい
そんなものお前知らないだろう

なれなくていい
清らかになんて
英雄になんて
満ちたら後は
ただ欠けていくんだから

波はあたたかい
浜辺の空き瓶みたいに
それだけが記憶に残って
他は全部やってしまった
チョコレートのかけらみたいに
本に挟んだままの栞みたいに

春の海で引き取りたくて
息を止めに僕は行ったけれど
宝物をたくさん秘めて
お前はまだ要らないと残される

誰も知らないけれど
何も何をも云わないけれど
これからもずっと繰り返すけれど
拒絶は同時に肯定でもあった

水平線は光の糸
大航海を知らない古い船
そのまま朽ちて流木になるの
漂着した屑は誰かの夢になるの

世界は大きな一枚の布
金と銀の刺繍だらけだ
ひとりでだって生きてけるけど
ひとりでだって生きられるけど
余所見しといて刺し間違えて
ぷつりと流れた血が僕らの息
無色になれない鮮やかな未来





「ヒーローの愚痴」

助けの要らない
生き物なんてごめんだ





「スターダスト・ジャーニー」

いろいろな遠くへ走る汽車で眠れば
夢の中で言葉が分解する
アパートの三階から落としたコップみたいに
到着駅は母国語でない看板の立つ街
隣のバルコニーで喫煙中のきみはぼくを笑ってた

どこへ行こうが何を見ようがぼくはいつも泣きそうだ
思い出なんかない場所で
知ってる子なんか誰一人いない光の中ででも
涙腺が駄々っ子みたく病をこじらせるけど
瞼は滴の落下を拒み眩しげに閉ざされる

さよならもありがとうも云えず
こんにちはもだいすきだも忘れた
目が合えばただ少しはにかんでいる
病気の子どもを抱えた優しい父親のように

太陽と月が昇る方角しか知らない
ぼくはいつだって異国人になる
産まれた場所に居たってずっとそうだった
誰に話しかけられても返事ひとつできずにいた

星が飾るたくさんの空
たくさんの人にとっての無数の夜
越えても巡る永遠の分配
星屑を纏った黒衣は月の浮かぶ船に乗る
河岸で葬列とすれ違う
彼等は俯いて美しい
仮面のように凹凸の他は何も無い顔
ぼくの行先なら誰も知らない
病んだ子どもはこの腕が抱いてる
子どもはぼくとよく似た瞳でくるくると宇宙を見上げる
そういえばまだ名前が無かった





「聖夜の脱兎」

遊覧船は失速した
橋の足にひっかかって
空を回す時計の針が
決まり事を失い途方に暮れる夜に

野兎はケージから逃げ出した

白い雪の上を
大きな犬に吠えられながら
月の光の上を跳ねていった

森に着くと人に姿を変え
記憶を頼りに目的地を目指す
夜行性の鳥たちが
彷徨う足跡を数えている

小さな滝が流れ込み
川は途中で湖になっている
それは年々面積を増し
いつか星を飲み込むのだそうだが
今は誰も信用しない
野兎もそれを信用しない

しかし湖はおおきくなっていた

自分が掴まっていた間に
たくさんの魔法が消えたことを野兎は知った
その場に蹲って舌でなめた





断片がかき乱す
振り切ろうとして泥濘にはまった
赤色が欲しい
曇天は人々の涙腺を貫通した

爆音に怯えて夢に驚き目を覚ます
摂理に理屈は通用しなくて
このためだったと信じさせたくて
ぼくはきみの窪みに掌を押し当てる

温かくないと素っ気なくて
冷たさを分かることを喜んで生きる
ありきたりな羅列に埋もれることの甘受
別れの言葉の後に春はまた巡ってくる





停滞のときを超えて
歯車はもう一度回り出す
平々凡々を笑わないで聞いて
泣きながら幸福に飲まれていく
懐かしい音が流れ続けて
景色はどこまでも続いていく
平々凡々を笑わないで生きて
抗っても日々は真新しい
望んだことなど一度もなくても





時間は止まった
明日の手紙は配達されない
犬も鳥も逃がした
何か沈んだ浴槽
一日だけ正確な晴天
ぼくたちは素敵な二人組

時差は遅れて、やってくる





「遭難」

廃屋の窓が青い光を燻らせる
かつてを知ってるロープウェイ
看板のペンキが一部剥げ落ちている
隣を過ぎ去りながら横目で見る
それが動いていたころ
整わないものは何もなかった
欠落だけが見当たらなかった
ほとんど誰もいない太古
地層の縞がわたしから寂寥さえ奪う
文明のかけら体中に身に着けて
雪さえすべて初めてではないって
言い聞かせて今やっと眠れそうなのに
上空からヘリコプターが光反射する
救出と絶望はときに等しい
言葉足らずで変人だろうか





「あたりまえのこと」

期待させてよ因果と調和
負けないでいてよ正義のヒーロー

真に受けないで隠した一枚
不平不満のトランプゲーム

たった一枚足りないだけで
終わりがなくなるトランプゲーム

夕陽射しても帰っていかない
星が降ってもこの家にいて

朝がめぐっても起き上がらない
あなたが見ないとぼく死んじゃうよ