dark is my treasure.
光だって無心だ
ふりかえらないことじゃなく
いっぱいになって満たすことにおいて

この部屋たくさんの鏡が
あなたの顔をまるで無数に見せるが
窓枠の無い窓から
闇を失う怖さをも僕が教えよう
あなたにだけは教えてあげよう





「深海客船クルーズ」

水底が近づくと
乗客の口数は極端に減る
重みに圧され
鋼鉄の撓る音がする

ある人はそれを氷柱の折る音といい
ある人はそれを散髪する鋏といった
正解の存在しないことを
誰からも誰も責められない密室だった

儚い化合物
手を繋いで
名前をもらうまで
手を繋いでいてさ

名前をもらうまで
呼ばないでいて
名前をもらうまで
だから知らないでいてさ

水底に辿り着いたら
目を開けてきみを見るから
船長も船員もいない
置き去られた場所できみを知るから





感情の蓄積は芸術たりうるか
眠たい瞼
さよならの時と場所で
美しいものの崩壊を待ってる

かつて逆光に翻った革命の旗は
新生児の頬に光が直射することをのみ妨げ
血潮は乳となって未来永劫降り注ぐ
乾いた大地に走る水脈のように無心に

格子は壊され
殻は砕かれ
見晴らしの良くなった今
僕の右腕が無い理由をもう誰も覚えていない、今





祈りを妨げ
時を謗り

記す
ただ

神よ
破綻しろ

波の慟哭
偽りのない潮騒





密会の連続
怠惰な輪廻

僕の母
プリマヴィスタ

僕の親友
そのペルソナ

スピカのワルツ
金冠のアンダンテ

誰も何も知らない夜に
駆け出したんだ

静寂というシュプレヒコールの中に
たったひとりで
うまれた





意地のように睨んで
嘘にならないよう何も云えない
祈りがすべて痛みになるなら
願うだけであとは笑っていよう
きみは忘れた
いま怯えているもので救われたぼくを
硝子は温室のように部屋を暖めるから
無色の風が何を云っても響かないね
弱気なぼくだけ密やかに出入り繰り返しても
花芯を震わせたことだって誰にも伝えられない





常緑の国
いつもそこにあるもの
横たわる人間の

海底で千切れた鎖
一緒に沈んだ契り
凪ぐ心
表面を照らして
はぐれた鳥がどこまでも一羽





あいにいく
あいにくる
越冬するカルテット

思い出がずっと
今をくだらなく思わせる
夢と砂糖でできた
幻のような幼少期

割れて剥がれる親指の爪
視界を塞いで閉じ込める吹雪
瞬きをあと何回で
深呼吸をあと何回で辿り着けるの

やすみなく
とめどなく
憧憬をのせてゆくカルテット
離れた指を近づける旋律の符合





「荒廃の誕生」

誰もいなくなったら歩き出すよ
砂丘は凪いだ渚
散りばめられた絶望の欠片
生きる死のために血を舐めた
僕のではない血を
太陽はどこまでも赤く澄んで光の手を伸ばす
容易に捕まることを恥じてこの足はどこまでも歩ける





きちんと、

それは過言だよと僕は密かに責められたかった。樹液に捕まった虫のように晒されて、いつか誰かの言葉の根拠になるのだ。貝や花に似ない、恥の原点。太古の存在証明。それは過言だよと僕は詰られたかった。文字を知らない時代に杖の先で象りを悟られてみたかった。瞬きの後で見つめられて燃えあがるような中枢に僕は僕の指で触れたかった。化けて踊り出す人間の本能。炎にたじろぐ死人の影。なりえなかった生き物。持ち得なかった欠陥。血管。

生とは腐敗を知らない死を包含する、僕を除いたこの世のすべて。