言葉が断絶される
まるで虐殺的に
青い目が接触を訴える
愛は指先に宿る
夜と闇は違うものだよ
月が見えているか
月を感じているか
そういった違いがあるものだよ
親は死に子は眠る
寝床のために瓶いっぱいの血を売った
誰も知らないこと
誰にも言えないこと
ぼくらを囲う
この柵は影でしかないって
伸ばした腕に蔦が縋るような光陰
眼差しは焦点の結び目に飢餓していて
舌根は呼べる名前を欠損していて
いくつもの血の果てで双眸は言葉少なに濡れる





「モノクロモノローグ」

湧出するモノローグ
白と黒が混在する
鮮やかさは渇望される
光は何も救えない
影をちゃんと飲み終えるまで

行儀よく
だまって





「燦然の調教」

乾いた景色は潤沢を秘め
太陽はまた何か悲しい出来事を照らし出すだろう
ぼくらがまぶたを開いていようが閉じていようが
お構いなしに色を塗って刻み付けてそれから
夜のとばりを乞うように人を躾ける
太陽が与えられる最大は闇
光ではなくて
誰もみんなそれを忘れた
口の無いぼくに望まれる一日の終わり
頭上に広がる星空は真昼見えないこの世の傷痍

(さよならもおやすみも
吸い込んで太陽の調教は完了)





「湿地のマリア」

どうしたかったの
どうなりたかったの
緑一帯
ほとりに跪いて
両手を浸して
水面が凪ぐまでそうまでして
誰を待っているの
誰も寄りつかない森のまんなか
食物連鎖の消えた聖域
だって森は
あなたなんか囲ってしまったんだもの
陽は及ばない
脆弱な光を恥じて
そんなところから何に届くの
そんなことをして誰が知るの
腕を浸して
足を折って
何が見えるの
祈りを放って何を歌うの





「どこにも」

繰り返される場面
それをどこで見たのだったか
どこからどこまでが本当で
他がどれだけ捏造なのか
誰にも証明しえないでいる

僕は僕の再生装置を
入れた箱の鍵を溶かしちゃって
自分で進めることも巻き戻すこともできないんだ

誰かがそれを美しいのねと云った
百年分の潤いで照る緑の葉
同じ季節に誰か僕を呼んだ
裸足の裏で感じる砂浜の熱さ
踏んだ貝の尖り
波は浚いたいものだけ浚って夜になった
手が離れていくみたいに月は満ちて欠けてた

鳥も眠る
星も眠る
どれも同じ樹の上で

異才がないんなら生きていたくなんかないや
他がどんなに劣ってたって異才がなけりゃ
って
誰かはそう云って白くなるほど唇を噛んでいた
君が羨ましかった
その誰かは僕を見て云ったんだ

ぼくはきみの人生がうらやましい

分かっていた
目を覚ますたびに
巻きなおされていた繃帯は
奇跡の仕業なんかじゃないって
だってそれは生きた二本の手と指先がなした仕業でしょう
希求されるほどの命を僕は何故もてあましたりしたの

貝の尖り
波の輪廻
命の音
繰り返される場面

それをどこで見たのだったか
思い出せないふりをすることでしか
楽に呼吸できる方法が僕には見当たらないんだ





誰もあなたなんか愛していない
足りないのはその実感のほうじゃなかろうか
並べられたものに惹きつけられてばかりいないで
軌道を持った現象は何も残したりなんかしない
いつ創ったか分からないというひっかき傷が
夜半あなたの上に生まれる瞬間に僕は立ち会った

月の見えない夜だった
そして静かな夜だった





「血と星」

産み出されたものの夥しさに辟易して
情熱の安易にかまけて生きてはいけない
見知らぬ土地の紋章のごとく編み込まれた
悪意のない茨の奥に真実はあるかもしれないから
死の間際にまで起こる出来事ひとつひとつを
生き抜く合間に絵本のように整えてはいけない
収斂され簡潔になるあなたの一生
血を辿れば数の遠さは星と星ほどだったとしても
ふっとこの手を離してどこかへ行ってはいけない
棘に穿たれ咲く花は墓標と地図を兼ねるだろう





一瞬も無駄にはできない。のに一瞬だって無駄にしないでは生きていけない。あと百年生きるんだとしてもその間ずっと健康でいられるわけではない。足が動かなくなるかもしれない。視力が落ちたり言葉を忘れるかもしれない。不具合を負って、だけども生きていかなきゃならないとなったら時間はそれでも尊いだろうか。惜しむように費やすようなものであり続けるだろうか。答えはいつも否定で考えておいたほうがいい。ぼくたちは価値観の崩壊を体感したのだから。できたのだから。突き放すことのできる優しさのすぐ身近にあるという幸せ。孤独を求められるだけの関心に包まれたありきたりな日常の幸せ。申し分の無い生活。いつと比べて平和か。今日に比べて明日は平和か。ならば今日は明日より不幸なのかそれともそうじゃないのか。霞んだ視界を人影が過ぎる。それには肩から先が無い。砂塵の中を彼は歩み続ける。眼球にはりつく粒子を拭う手も持たないで。いつか鮮明を手離すことが分かっても彼は行く。あるとも知れない夢に見た場所へ。佇む神様は何も云わない。途方に暮れた子供と変わらない。瞬きをしなければあなたがそこにいるのだなんて気がつかなかったよ。反射する光が踊り狂う頬は表情を眠らせて喋る言語を持たないぼくをいつか祈るように眺める。





「救われない物語だけが救われなかったものを救うことができる」

出会えてよかったといえるものは数少ない。すべてに感謝。すべてが奇跡。すべてが大好き。すっばらしくて反吐が出ます。きらいなものが何かわかってないだけじゃないか。だけど好きなものを隠し通すことは悪くない。脆さを分かっているから。移り気な自覚もあるから。だからだ。嫌いなものの無いことは一見ゆたかなようでいて実はとても寂しいことだ。ぼくはそのような心を羨望しない。膝をついた姿が好きだ。まともじゃない。きみの腹中に燻っているであろうその劣等を愛してると云ってもいい。救われない物語が溢れていく。そんな物語だけが救える相手もきっと存在する。ちゃんと、と云い換えたっていい。世界はおちこぼれを無視しない。片隅でぼくは最後まで何も肯定しない歌を歌おう。転び方を知らない誰かのためにぼくは杖を渡したりしないでいよう。そんな部分もちゃんと残っていけるようにしておこう。顔の無い世界の一要素として誇示せずにそれを誇ろう。