窓際の虜囚
国に残したかの人を思ってる
離れれば離れるほど
その影がきみの中で鮮やかになるんなら

もう返してあげるよ
生身は幻ほど美しくはならない
差し引いてなお余ったぶん
それがぼくからの贈り物

きみを囲い切れなかったことで
ぼくはきっと永劫の笑いもの

だけど願いはただひとつ
きみが抱く幻をこれ以上見たくなかった
きみが夢にまで願った姿それはぼくにとっての亡霊
きみの目はぼくを暴き立てようとする
これ以上ぼくという現実を視界から遠ざけないで

国境をたやすく越えられるもの
乗り物でも人の足でもなく
風でも歌声でもなくって
それはまなざし
ぼくを見ない目がいつまでも見つめていた切望の正体





どんな短い中にも物語があるといい。たった一行の間に、分厚い本一冊に劣らない世界を予感してほしい。素っ気ないふりをしていたって、それだけの思いが無けりゃどうしてこんなにも無謀なことを続けられるというのだろう?ぼくの中であなたの形はおおきくなったりちいさくなったり、あつくなったりつめたく感じたり、ぼくはあなたをときどき殺したい日もあるが、あなたがぼくを殺さないかぎりぼくはあなたのために死にはしないし、調子のいい時に至ってはもう、あなたの鋳型になるほどあなたをきつく抱きしめたい朝もあるんだ。今日という一日のおわりが今まさにそうであるみたいに。





海は遠いな
昔を思い出した
ふと思い出した
あのひ、海はとても近かった

何かを口にするのは
それを過去にしてしまいたいとき
そうでなけりゃあるいは
いつまでもずっと大事にしたいとき

のどを潤すには足りないコップの残り
砂漠でさえないというのにきみとそれを分かちあうことができない
ぼくは自分のふがいなさに絶望し打ちひしがれそして
ごめんねも言わず口うつしたい衝動をあれから七年後のいま強く希望する。





にぎやかな始まり
さみしい終わり
ごちそうさまでしたと
箸を置き合う葬列
ぼくの理想のぼくの死後
たとえ空が晴れでも雨でも





諦めてゆく
高い場所から
赤い礫は落ちてゆく

あれは誰
これは僕
名もなき無数の命

無名へと戻る
海面に浮かぶ
餌にはならず
糧にもなれずに

紺碧の絶景の絵画
描かれない無数の仮面
奇遇にも打ち寄せられた
波際のちいさな微笑み





かわいがられたことがない
あまえてみたことが一度もない
そんなきみの視線に耐え得る
ぼくのきみへの正直

魔法の呪文だよ
箱庭で知るのより
もっと長く続く瞬間だよ

なでられたことなんてない
ほめられたことなんて一度もない
きみのほんとうの優しさに耐え得る
ぼくの知るきみの唯一のぼくへの気持ち





真新しい冷蔵庫
白い壁は無菌室を思い出させるね
こんなにも汚れた食べ物ばっかりなのに
何もなかった引き出しに
今日は赤い腕が一本
何も覚えていないけれどそれは昨夜の出来事だった
わからずや、とつぶやいて僕は重い扉を閉める

まな板の上に
魚の尻尾にまじって何か散らばっている
三角コーナーに不揃いな眼球
出窓からふと外を見ると青空に
刷毛で塗ったような白い雲そして蝉の鳴き声
繰り返されすぎて念仏みたいだ
つまんないな、とつぶやいて僕はカーテンを閉める

外につながる小さなものを
ひとつひとつこの手で閉じていって
最後にたったひとりになったキッチンで
僕はきみとの夢を見る
それからひどく後悔した気分で目をさまし、
こんなところで寝てんなよ、と呼びに来たきみの体にすがりついて性懲りもなく号泣するんだ。





星を消したの
この目をとじて
いやだよ
だってもうすぐ朝が来るでしょう

僕に優しいものは
みんな光が奪ってく
だからときどき
自分で消しちゃいたくなるんだよ

わかるでしょう
きみにも?

高所恐怖症な魔法使い
夜を渡る羊飼いや
部屋のすみっこのお友達
そして意地悪な影法師

みんな
みんな
まっしろい光が奪って消えた
僕に優しい僕の大切なものたち

だからこの目を閉じて
星空を消して
銀河が近いよ
耳は正確にとらえる

きみの手はただ
この手を離さないで
弱気な僕がようやく
猟奇的な光の中を歩きだすこの時に





おまえひとり消えたところで世界はきっと何事もないさ。これを優しい言葉として受け止めてほしい。おまえはぼくを捨ててもいい。





新しい夜明けの終わり
ぼくたちは何か見落とした
そのことに気づいて
誰もがはっと口をつぐんだ

選んだときに選ばなかったもの
認めたときに認めなかったもの
守ったときに守らなかったもの

死に至った骸は忘却の彼方
亡霊は生き残りの描く贖罪の証
いくつもの国境を越え続け嘆息を収集し
知らぬ土地で墜落しないため風をさがしている

願いを込めて磨いた宝石で
大切なひとがぱたぱたと倒れる
紋章の滲んだ国旗は翻って見えない
体内の懐中時計は今何時を示してる?

忘れないでいて
愁いを携え生き抜くことだ
確実に死ねる唯一の方法は
それだけは疑わないでいいんだ
唯一は生き抜くことなんだと

心配いらない
呼吸と鼓動がとまる時
あなたがゆっくりと降るその場所に
寝床は清潔に整っているんだ、いつでも