あなたには何もかもがやさしすぎたんだ
ぼくの不鮮明を分けてあげられたらよかったな
そうしたら始発電車をとめなくて済んだよね
今日に似た日がくることを恐れながらぼくはきっと生き延びる





きらいなものを
すきなふりしたり
だいすきなものを
だいきらいなふりしたり
他人へ吐く嘘を
誰よりも分かっている
分かってしまう
衒いなく騙される人に
だめだとか
勝手に失望なんかして





ひび割れた器を満たそうとして
僕はいつも失敗をしていた
何かに縋りたくて
何かを救うことがしたくて
何にもなれないで
何も残せないで
生き物には持ち得ない感触のうわべを撫でて
巡るいくつもの日々をやり過ごして待った
幾ばくかの優しさを素知らぬふりして
きみから向けられる好意にさえ
相槌一つ打つことができず
こんなにも臆病な僕の上を星はいくつも流れた





終わりないものに手を伸ばそうとする
僕の浅はかさがまちがっていても
崩壊する青空の切れ間からまた別の光
皮を剥いて舌押しあてた果実の表面に
君は僕の美味でない味を嗅ぎ取る
難題を突き付けられて歪む顔なんか笑い飛ばして





落ちちゃいそうだよ、
水平線を歩く
きみが笑う
夏の終わりに
ぼくは死んでいるよ
この気持ちを
言葉にもできないまま
落ちちゃいそうだよ、
そればかり言うきみ
落ちればいい
落ちていけばいいのに
夏が閉じる





「ひとめぼれゲーム」

舌が竦むよな
光の点滅
音の乱反射
楽譜を撫でる視線が
ぼくを見た一瞬の煌めき
それは宣戦布告
嵐の前の静けさ
春の終わりのような
夏の夕立のような
忘れられなくて
香ばしい日々の予感と





ぼくは何もすきじゃなかった
きらいなぼくはきみに任せて
いつも瞬きを惜しんでた
きらいな世界の果てを
ううん、
果てのあることを
知っている特別みたいに
なんでもないのに
なんでもないぼくを
きみはきっとわかっていたんだね
だからきみはぼくにとっての特別だったんだ
ずっと前からほんとうはね





きらめいて笑いながら
きみはいつも隠していた
ぼくが青い瓶に沈めて
見ようとしなかったものを
置き去りにしたりしないで
忘れたりなんかしないで
いたずらに見せびらかしもせず
身軽な漂流者のように
だまって風に吹かれていた
握り締めた両方のてのひらから
木苺のような血をとめどなく流して





具体性に欠ける夢に忍ばせた君への誓い
さよならはいつも優しさとして姿を現した
だから僕らは誰一人としてそれが嫌いではなかった
それのために出会うと云ったって過言ではなかった

車窓から駅のホームが見えなくなって初めて
僕に手を振っていた君について考えることができる
その見慣れなかった姿を思い浮かべることができる
それから気づいていく
君が僕に本当に告げたかったのはさよならではなかったことに

流れてゆく景色が僕をいつも時間の後先へ運ぶ
ヒメジオンの秘密基地と雪に埋もれる家
あの場所にはすべてがあった僕の何もかもがあった
もう戻らない場所を作ることですべてを得て僕はまたさよならの旅へ





力を持たない祈り
想像は厄介なカーニヴァル
白線は踏みにじられて
捧ぐ手は切り落とされて
平和は争いの中に
争いは平和の中に
分かって欲しいという願いが
何も伝えられない事実を今日も僕らに突きつける