「救世主」

すべてにぼくを見て
収斂の真似事
鏡のように映して
あなたが覗き込むとき
ぼくも同じ顔で見つめるから
背中を向けたら背中を
微笑みには微笑みを
キスにはキスを
体温にはただ感触を
生き物でないということが
生き物でしかないあなたにとって
一番の救いでありますように
ぼくは誰の体を裂いても産まれませんように





「拙い獣」

だって誰も教えてくれなかったんだもの
ぼく知っちゃうよ
知ってしまうよ
見つかってもあなたが隠そうとしなかったもの
カーテンの裾は投げ出された白い脚を撫で続けた

暗号ばかり散らばった甘い木のにおいのする部屋
この世界のどこにも虐殺なんてないって顔して
飛べない小鳥たちは青空を夢見もしないで巣の中でさえずる

ずるいなんて言葉を何の恥ずかしげもなくよく使ったね
横たわった臓器を包む皮膚を跨いであなたはまるで
ここが舞台の上であるような歩き方をする
あるいはそれをそう感じ取るぼくがいて

ずるいことも汚いこともこの場所にあふれてる
今さらそんなことを持ち出して悲愴めいた顔で見るなんてかわいくもない
可能性を一つずつ消して行けば最後に残るのは形だけだって
そして形を知った後はもう何も無い場所へは戻れないんだって
お前なら知っていると思ったんだけどな、とあなたは買い被りを吐露する





星の冠
涙が流れる空
網膜が剥がれる
雲母の破片が収斂して薄青く光り
科学者たちはそれを新種の生物の卵だといった

星の冠
涙が空にこぼれる
ぼくの視界どこへいったんだろ
重たいからだを置き去りにしてあの広い銀河へ
肉や骨にとらわれない身軽さであの果てしない新世界を眺めている頃かな





「ふたりぼっちクロニクル」

分かり合えたら死んじゃうんでしょ
同じように見えたら同じものになっちゃう
ぼくときみとはそういう関係
何百年前からだったかな
あまりになじんでしまってもうずっとひとりぼっちみたいだね





発作が起きるとあなたは丁寧になる
所作のひとつひとつがひどく緩やかになり
おろおろするばかりの私に微笑みかけさえする
だいじょうぶですよ
ぼくはこの時間がけっこう好きでね
だってみんながやさしいのですから
もしかしたら終わりの節目に立ち会えるのではないかと
死を期待するひとの顔つき
命の終わりを目の当たりにするのではないかという希望
そんなときひとはもっともやさしいのですから
あなたは知らないでしょうね
鏡をのぞくころにはもういませんからね
しかたがありませんね
あなたは今おろおろしているつもりでしょうが
ほんとうに本当に優しげな笑みを浮かべているのですよ。





ぼくは膣から産まれたかった
蝶の子が親に言う
仕方がないでしょうだってあなたは昆虫だもの
蝶の親が子に言う
だったらぼくこんどは産まれてやるよ
こんどこそべつのいきものになってやるよ
そう言って蝶の子は飛び出していった
まるで蝶らしくない動きで
キャベツ畑を飛び越えてった





言葉が不足している
これはまだ指先の遊戯に過ぎないんだ
入れ替えたり組み込んだりして
なだめたりすかしては嘘ばっかりついて
海の見えるテラスで
水平線に目も向けられないぼくには目も当てられない
舌の上でスペルを
つま先でラインを
指先でルービックキューブを
一瞥
そしてまた舌の上でスペルを
つま先でラインを
指先で言葉のルービックキューブを
一瞥
燦々と降り注ぐものを受け流す贅沢
関わらないことが何よりの関与で放棄は何よりの妥協
テーブルの端に置かれたコップの中で氷が溶ける
注ぎ足しに来たバーテンが苦笑して僕は彼を異世界の視線で睨みあげる
「すべてが」
何がおかしい、と呟いた僕の声はすっかり嗄れて彼をそうも微笑ませるんだ





なにがわかるの
なにをしっているというの
ぼくはあなたの前で一度だって
夜明けになって後悔するようなこと晒さなかったよ

みんな死んじゃえばいいのに

てのひらを魚のうろこでいっぱいにして
とても優しい提案のようにあなたはそれを云った
すると何もかもが本当に過不足がない世界となって
生臭い命を丸のみすることにだって違和感は消えた

どうしたんだろ
今朝になってそんなこと言うなんて
よっぽど生き抜きたいんだ、ねえ
鱗の無いからだは茨を抜けるに無防備すぎるね

死んじゃえばよかったのはぼくだなんて
願わないように
生まれ変わりを
願わないでも酸素吸えるように

ぼくがあなたに教えてあげたい
柔らかな肌の本当の使い方を





秘密の箱庭
獣を飼ってる
食べて食べられる
ささやかなルールと
ほんのちょっとの現実

枯れない花と
干上がらない海と
飛ばす必要のない種
聖なる平和を根付かせてあげよう

真夜中の同時刻
ベッドの下からこっそり引っぱり出しては
人工の光で照らしていてあげよう

覗き込んでいると涙があふれて
それは星のように映るのかな
箱庭の住人の君の目には
ぼくの頭にはもう冠なんてないんだ





どうしてそれをしないの?
あなたは好きなのに
いつだって考えてたんじゃないか
そのせいで僕を見もしないで
そんなあなたが好きだったのに





and go
心してかかれ
ピンクゴールドの鍵
空くじもある暗号

you late
怯えずに進め
プラチナブロンドの少年
屋根裏部屋の幽霊

so good
扉は開けた
ブルーブロンズの風
生死いりまじった舞踏会で遭遇





world's end parade.

真摯になれたらといつも願うよ
ふたりを誰も知らないという事態に直面するたび
見えないのなら却って分かっているんでしょう
ぼくの目は海底のように昏く光るんだ
ときどきね

たずさえたものの放つ芳しさに
いたたまれなくなって手を離したのはどっちだ
崩壊を始めた世界のなかを
これからパレードに向かうみたいに駆け抜けたね

何がたのしくて
何がさみしくて
何がぼくらをつなぎとめて
何がふたりをひとりにもどさないか

虹かかる夜を幻のように駆け抜けながら分かっていた
受け容れることになるくらいなら手離すであろうことも
だからこれは終わりではない
始まりでもなくってぼくらただ笑い合うように泣けるんだね
やっとここまで辿り着いたんだね