夜が明けていくのを見ていた
自分の尻尾にひっぱられて

まっすぐのびた二車線
誰もいない
車も走っていない道路
今日は何も死んでいない

姿の無い小鳥
電波塔のランプが光ってる
街に包まれた森
ちいさな社を守る森

呼吸する酸素が
ここにある
朝もやの中に
真新しい透明を見る

夜を見ていた
朝を見ていた
はじまりとおわり
ぼくにはただそれだけ


+


使わない器官で夢を見る
それは贅沢だと叱られても
望まなかったのだから仕方はない
僕はあなたではないのだ
あなたが僕ではないように
東から雲が光った
それぞれの前を向くといいのだ


+


That night, you hate

ナイフもダイヤも捨てた夜
泣き方をさがして
ぼくのベッドに
きみがもぐりこんだあの夜に
世界のあちこちで弾けたね
ハチドリや
金魚
プラネタリウムの
惑星
そして宿ってる
いまもだよ
この今もだ
ぼくは覚えている
ナイフもダイヤもちらばった
初恋の瞳に
ポストの底の
拾われ損ねた封筒のすみっこに
ちらばったまま夜は塗り重ねられる
唇を浸す人肌
秒針は苗床に落っこちた
窓の外をパレードが通り過ぎても
湯気を吹き散らしてみんな知らんぷり
ナイフもダイヤももう見当たらない
きみの影も光を追って行った
輪郭の煌めきを覚えておこう
きみがきらいなあの日のきみを
いつかきみだって忘れちゃうよね


+


「同級生」

いつか同化する
ひとつになる
そうすれば
そうしたら
離れるたびに冷たくなってく
肌の表面をさする必要もなくなるね
いったいなにがかなしんだろ
いったいどうしてさみしんだろ
ぼくが期待する答えを持ってるくせに
あなたはいつも何も知らないよと笑ってた


+


「白昼よりも」

なにも企まない
だれも謀らない
一枚の天鵞絨
懐かしい夢の国
笑われたって
許されなくたって
いいじゃないか
真夜中は白昼より
ずっとずっと
たくさんの光がある。





月の下のピクニック

その人と別れてずいぶん歩き出してから月の真下でふと、あれはそういう意味ではなかったんじゃないか、と気づくことがある。そうするとわたしの影も光もあやふやになって、境界線はからまって、なんだか夜なのに目眩がしてしまうことがあるんだ。もしかすると、あの言葉の意味は、仕草には、もっと優しい動機が含まれていたんじゃないのか?そのことに気づいたら上品な、ソーサーをかたっぱしから割っていって犯罪者呼ばわりされたくなってしまう。どうせわたしには何もないんだ。だから何も始まらないんだ。どうせなんかで言葉を始めてしまうから。そしてまた歩き出す。どこへ向かうところなのか、あるいは、どこへ帰るところなのか、なにひとつ分からないまま。そしてひとつひとつ思い出す。あなたの言葉はいつも何も問題はなかった。わたしにとって害のないものだった。それは真綿のようだった。だからわたしを不安にさせた。わたしは歩きながら考える。ときどき立ち止まる。そしてふとあたりを見渡して唐突に、いままで感じたことのない衝動で後ろを振り返りたくなる。まだ思いを馳せられもしない幾つもの。幾つもの破片の中であなたは待ってくれているんだろうか。戻れないのならその鋭利で傷つけられたがっている。指でも腹でも。もっと致命的などこかでも。





溶けていく
この色になるのだと
誰かが言って
頷くこともできない

秘密は誰かの
机の中
言葉はずっと
星の裏側

何だったか
そもそも
あったか
忘れたようでさみしい

誰へ届くこともない
誰に伝えることもできない
ぼくが溶けたこの色で
きみはまた手紙を書くのかな





誰だってそんな
切り捨てるようなさよならを
したくなんて無かったよ

潰した果実はいいにおいがして
それにならお金を払ってもいいと云った
あなたのポケットにサイダーの蓋しか入っていないのを
ぼくと、ぼくの幼い妹だけは知っていたんだけれど

大人のまねごとには自信ばかりがあった
たとえばあなたはトランプの角を
誰にも悟られず且つ誰にも見抜かれることなく
ごくわずかに擦ったりなどして見えない印をつけることができた

天井の隅から斜め下に視線を投げかけている
きっと異国の歌詞を歌ってる鳶色の瞳した彼女だけは
聴衆に一瞥するような眼差しできっと見抜いていたんだけどね

このコーヒーは甘いようでいて苦みが強い
だけど決してぶれることなく平常に
あなたは完璧な瞬きをして涙を見せまいと拭った

たとえば今この瞬間が
星の裏側に光の粒として像を結ばなくとも
気配だけは幽霊のように感じていてほしい

もし伝わればきっと、絶対に
誰だってこんな
冷たい橋の下でさよならを云われたくはないと云うよ





それは酷く、具体性に欠けた
格子越しから見る硝子透かしの
虚像といったらいいのか
或いはまぼろしと呼んだらいいのか
いつか誰もいなくなることを
願いながら本当は欲していたものを
手離すにも手繰り寄せる必要性を
存ぜぬふりをして白を切りとおそうとした
罰を受ける根拠ならどこにでもあるのです
探索なんて骨を折るようなことしなくたって、ねえ
放擲された句読点が庭の樹の下に散らばっている
芽吹きが危ぶまれるほどに
それが早朝からの雨に打たれて流されていくのを
なすすべを持ちながらじっと動きもせず
男物の半纏を羽織って木偶の様に見ていた。





ひと針、ひと針
布の裏から出てきた先端を
もう一度くぐらせるという遊び

見えない相手と戦う剣士のように
ばっさばっさと薙ぎ倒す
辺り一面が血の海だ
だけどこの部屋は曇りと予報ばかり

おはようって起き出したきみが
のそのそとキッチンへ潜り込む
黙って刺繍を続けていると
やがてごめんねってきこえて
教えた覚えのない好物が差し出される

そして血の海は薔薇の花に変わる
くしゃくしゃの布に針は埋もれた
ふわふわの花弁に剣は折られた
信じられない
いっそ派手に殺してやりたかったけど
こんな朝に
こんな最低の朝にきみはそれを言えるんだよ