1.Good Morning Fucker.

乳白色の朝の雲
西から東へ水平に横切る銀色の機体
それは誰かがこちらの世界を覗き込むため
こっそり入れた切り込みのようだった

きっと余所見などしていたからだ
手元が狂って香辛料がでたらめにふりかかる
だけど捨てない
なんでも捨てたがるきみへの反旗だ、これは
すくっては吸い
吸ってはすくって
そんなもので胃の襞をきりきり痛めつけながらやがて
切れ込みがすっかり消えてなくなったのを知った

昨夜の残り物の湯豆腐に
何もかもを奪われてしまったような気がして
縁の無い土地を母国だと思い込むという遊戯を始めよう
絡め盗られそうになるそのたびに逃げだしてきてさ

誰からでも褒められる箸の使い方を
誇りに思えたことなどただの一度もなかった
まだ誰も傷つけたことがない
その事実は僕が自身を気紛れに愛撫しようとすると
そのたびに現れ出て意思を翻す根拠になりたがる

乳白色の残り物
左から右へ水平にバターナイフをくぐらせて
それは単に何かのまねごとに過ぎなかったけれど
僕はふとベランダの外から誰かに見られている気がしてテーブルの上の食器をすべて平等に叩き落とした

(おめでとう、この的外れの衝動よ!)


+


2.秘密

答弁を求められても
これ以上の説明なんて無い
できないんだ
嘘がつけないから
この態度は断罪される
きっと罵られる
それは光に
ぼくを包んだ
大切に包んだ
ずっとそばにあったから
まるで誤解をしていたんだ
ぼくは何もしなかった
ただそこにあるみたいだった
どれ一つとして
構成はしていなかった
要素として存在させてもらい
あたたかい春をいっぱいに吸った
あなたが愛したものは
いまかけがえのない醜さを認めようとしている


+


3.deep night escort

誰も振り返らない
だれもだれも見向きもしない
そんな中でも夜は明けて
青磁の朝の四角い窓を機体が過ぎる

それは僕の得難い
ショートケーキの平等な分配の手つき
弟にはもっと砂糖が必要だったのに
愛が足りない不要の欲張り

やがて故郷の空は遠く暮れる
わたしには手段が無いから、
そう言って僕を見送ったあの人を
今の今まで忘れていたという事実

深海と夜は繋がっていて
僕が思い出さなくなった
たくさんの宝石をとじこめて
光さえぎられた静謐の中で
いつかのために磨き続けているね

夜明けはいつも狭い一本道
手さぐりの合間に理由なく泣きながら
両壁の感触に
捨てるしかなかった獣の皮を知る
かつてもこれもからも闇も音も静寂も
僕が逃げるからいつも遠ざかって見えた


+


4.secret circus

ビスケットを齧るみたいに
秘密を少しずつ思い出して
一度きりではなかったと知る
きみが裏切られた回数

サーカスのチケット
星が降っていた
手紙を書くよって
その時は本当に思ったのにね

さわれなかった髪は
まだ三つ編みをしているの
そしてそれを垂らしているの
誰かがそれをほどくの
それによって世界から密室になるの

舞い上がる小さな炎
屋根裏部屋できみから教わった
マッチのこすり方をぼくは
秘密を焼くためにだけ思い出す
降りつもる雪はあの夜の星たちの灰
むすばれなかったきみとぼくの薬指の骨


+


「初期設定」

初めて見た
あなたのように静かに息を引き取る人を
一度だってそんなことなかったのにねえ
どうしちゃったんだろう
鬼子の僕は
あなたは僕をどうしちゃったんだろう
さっきからずっと目が悪いんだ
バグってことならいいのにな
寝たふりはできても眠れない不死身の
だけど誰に確かめればいいんだろ
知ってるあなたを眠らせちゃったよ
いったい何へ問いかければいいんだろ
何へ?何を?
こんな日には庭に大きな穴でも掘って
あなたと一緒に埋まりたくなっちゃって嫌だよ


+


なにがくるの
雪がふるの
そしてなにがくるの
そして冬がくるの

ぼくの知ることは
とてもすくない
あなたは多くを
けしてかたらない

この目に星がいくつうつっても
ぼくの記憶容量に変化はない
押し出されて消えていく
あたらしく与えられれば与えられるほど

だからあなたは迷い
とまどって挙句に口をつぐんでしまう
きっといまも後悔しているのだろうね
ぼくに名前をつけたことを

それにしたって太陽は西へおちます
月がかわりに顔をだします
目も鼻も口もない
おおきくてしずかな顔ですねえ

朝が終わってなにがくるの
朝が終わって夜がくるの
それからそれから
たくさんの星が降るの

何かを証明するように
ひとつになったとして
証明を求める誰かはもう
それによっていなくなるんじゃないのか

ぼくの問いかけは
どうやら不都合らしい
あなたはときどき
苦いものを食べたように笑うね

なにがくるの
なにもこないよ
うそだ
それはうそだよ
なにかは、くるよ

そしてなにかがくるうの。


+


「入水速報」

人は、と書き出してただちに消す
人について語れるほど
果たして僕自身が人だろうか

目をつむると紺碧の海
それが足元のあたりだけ透明に澄んでいるのだ
浜辺にいるといつも付きまとうのは
不適合という烙印の感覚
観察者はつねに孤独でなくてはならないと
今となっては呪いのような言葉はかつて優しかったな

どうしても嫌なのかときかれれば
どうしても嫌なのだと答えるだろう
どうしてもここに残るのかときかれれば
それに対してもやはりどうしてもと答えるほかはないのだ

横縦一列ずつきれいに並んで
クレヨンで色を選んでいたあの頃から分かっていた
誰もが変わっていくだろう
だけど僕だけは決して変わることを許されないだろう

誰に課されたのでもない
何が許さないでもない
そうでなくては言葉が消えてしまうのだ
それは本当の暗闇を意味する

実際の暗闇と本当の暗闇の
全く違うところはそこに光があるのかどうか
望めば手のとどく場所に
ナイフの煌めきのような一筋があるかどうか

目を開けるといつだって暗い
だから僕は分からなくなり目をつむる
浜辺には潮騒だけがしていると思っていたけれど
振り返るとパラソルの下できみが笑った
背を向けた途端紺碧の海は僕に襲い掛かるだろう
それでももういいや、
僕が踵で星砂を踏みにじった時、さざ波が泣いていた


+


家々の窓をたたいてぼくは問いかけたかった
手がつめたいんです
足の裏が地面にくっつきそうなほど凍てついているんです
結局博愛は愛を知る同士の暗号なのですか
つまりは愛を信じないぼくが悪いんですか

ろうそくがあります
マッチがあります
点火されて美しいと思えたとして
以前と以後で何がどう納得させられるべきなのでしょう

みずうみで白鳥が繁殖しました
あなたたちは銃刀などでそれらを殺戮しますね
みずうみはいつも緊張に満ちている
だけど彼らは再来年にだって卵を孵化させるのですね

みにくいことは有利ですね
理由があきらかで結構なことですね
ぼくはあいにく整ってしまったから
求められれば差し出すべきだったのでしょうが
そうしなかったからといってどうしてこんなに手足を傷めるんだろう

雪にうもれて死んでしまいたい
人が思い描くほどきれいごとではないってことを
ぼくならこれから知っていけるけど伝えられはしない
もし義務ならば次は白鳥に産まれて何も拒まず繁殖したい
いまのぼくほど誰かが切実に祈った夜は世界でたった一度きり