とおくなる
遠くなって輝く
冷め切った芯は光につつまれる
なかったことにされて、ある

だけどからだは錯覚をする
もしや幸せだったのではないかと

午前中の海
堤防に腰掛けて
みえている
灯台の果たす役割もまだ知らない

松ぼっくりが落ちる
音は聞こえない
聞こえなかった
音なんかいつだって

林の向こうはせんせいの教室

なつかしいという感情を
こいしいという感情を
まだ知らないからさざ波に等しい
数えられも呼ばれもしない

やがて命になって
生き物になって
それはとても煩わしくて
億劫なことなんだけど
わずかばかりの思い出が美しいために
死ねない自分になることもまだ知らない

あなたもぼくもわたしも
どうしてなのかまだ誰も知らない
目を細めることも忘れ光源に見入る
辿り着けなくても始まってしまったんだということ





橋を挟んで
列車の窓越しに
対岸で

掻いたら消えてしまいそうに
きみは何度もあらわれる
もしもきみが認識を許したら
ぼくはぼくらになれるのに

走り出す車両
移り変わる季節
終わりが見えてこなくて
ある日、背中を強く押した

悲鳴はあがらない
人の流れは変わらない
しずかな幻だったのか
肩甲骨のぬくもりはたしかだったのに





たくさんの死をかかえて
きみは生まれた

夏の光のなか
水の反射ひとつひとつが
名づけられないまま弾けると
等しく当然みたいに

無数の、
かつての、
いのちを孕んで

繋ぐためでなく
語るためでなく
意味のためでなく
救済を意図なんかしないで

たったひとりで、
それでいてたくさんで
あたらしく、
死にながら

語られもせず
言葉にもならず
何も為さない響きで余さず与える
分けることなく存在を染ませる





閃きは一本の背骨
内臓をくるむ肋骨は追記
僕が目覚めるとき
肩甲骨は酔った闇におぼれた
二枚の未熟な翼みたいに
ただの名残は
いつもの最後を告げる
だけどわからない言葉
おしまいにはきっと程遠い
指先は余熱だけを掠める
掏ると輝度が上がった
白昼夢のように浮かび上がる優しい手
神様なんてものでなくていいと思った
誰が知るでもない呼び名で
あなたはとっくに現れてくれたから





何もわからない
躊躇するだけ無駄な時間を
その回答で引き延ばしていた
僕の座ったソファは
誰かの手のひらの感触に似ている
産毛がまだ少し
残っているような気さえする

差し出されるジュースに
どれもいらないと首を振った
どれもが毒だからじゃない
どれひとつとして毒じゃないからだ

余るということはありえない
割り算ではない部屋で
媚びることの煩わしさと
逆の煩さが
早く別の時間になればいいのにと思わせる

願ったのとは違う膜で
呼吸は徐々に阻害される

薄いのに破れない
半透明に見える世界
入りたいのか匿われたいのか
何もわからない
この気持ちでさえ語られる

言葉は感情を不自由にした
とてもさみしい気持ちにもさせた
本当に伝えたいとき

臆病だからそして黙る
ようやく一つ分かったことがあっても
だから誰に伝えることもできない

ここでこうやって手記することも
さっきから疎ましいほど奨められるジュースも
騙される才覚に恵まれない僕には
途轍もなく
ただただ夥しいばかりの
憧憬を抱かせてなお余りある

溢れる光の中にいながら光を乞う
切れない闇に包まりながら夜を探す
どうしてほらもうそこにあるじゃない、
誰かの声は遠く
幻に近しい記憶は色褪せることもなく
目を凝らした水平線はただただ青く夏に輝く
ずっと届かずにいたかったな





打つか蹴るかすればいい
浮かべるのに何年もかかったこの微笑が
気に障るというのなら

そうすれば分かるでしょう
どちらが実体のない幽霊か

陽は陰って
蛍光灯の眩さがこいしい
こいしい、

夜を纏って活性化する
育ての仲間には聞かせられない台詞だ

岸はまだひどく遠い
目を瞑っていたほうがよほど明るい





見張りの視線に気づいたように
すっと手を引っ込める

ほら目の前に
ぼくはそれを欲しかったんだろう?
ずっと
そうだ、たしかに欲しかった

なぜ手に取らない?
なぜって、
それはそうだ
決まっていない
まだ次を考えていなかったんだ

持ち主は知るといい
あなたが今日も笑って
屈託なく日々を過ごせるのは
ぼくが次を考えあぐねているおかげなのだと
同時にふたつもの夢を見る余裕のない
ちいさな世界のちっぽけな王であるおかげなのだと

あなたは知らない
あなたやその周辺を庇護する星の砂の輪は
その正体は
ぼくの葛藤、愚かしさ、哄笑の的にされがちな迂闊
そんな取るに足らないがらくたで構成されているんだってことを