「分岐点」

次に巡って来るその時は
もう誰にも疑われたくないね
偽りながら平気な顔をしていたくないね
できれば血で繋がっていたいね
いっそ反目ばかりしていつも誰かに
あのふたりはって贅沢に疎まれていたいね





「右手に住人」

ぼくの右手には住人がいる
そいつのことをぼくは知らないが
ぼくのことをそいつは知ってる
ということは
ぼくも少しはそいつを知ってるってことか

ぐっすり眠って目覚めたら
枕元に手紙が一通
差出人は無記名で
右手はペンを握ってる

書き出しはこうだ
親愛なる左の君へ

それでぼくは今晩から
左手にもペンを持たせてあげようと思う
だってお返事って欲しいものだろう

そんで翌朝になったら
零れたインクで完成するロールシャッハの羽が
天使でも昆虫でもないぼくの背に生えていますように

ひとつの体を血は何度も駆け巡る
右手から左手へ
左手から右手へ
一度始まった文通は命が死ぬまで途絶えない
最後の最後になったらもう、棺の中で手を組んでおやすみ





「転出生」

あんなに好きだと言ったのに
いとも簡単に捨てられる
きみが眩しくてだいきらいだった

額に線路の跡をつけて
惜しげもなく笑って
新品の靴で花を踏んづけて
それでいて誰からも罰せられず

きみの姿にみんなが恋して託した

殺したいもの
忘れたいこと
消したい思い出
なかったことにしたいこと

花壇の土は柔らかくて
それでも人は死ねるんだね
望まれなくても生まれたように
望まれながらで旅立つんだね





『ラバーズ・オン・サンド』

誰にも知られなくてもいい
そんな輝き方を知りたくはなかった
過去にも未来にもただ
ただきみだけでいいと言うのだとか

砂でつくったお城
浜辺の秘めごとみたいな繁栄
慌ただしく打ち寄せる小波
潮の満ち引きは月のせい

だから知りたくなかった
出会いたくなかったし
分かりたくなかったし
分かられたくもなかった

ぼくの顔を覗き込んで
きみは一瞬で感づいただろう
何が足りなくて何を欲しがっていたのか
つまりはそういうことだ

星でもなければましてや月などではない
手を伸ばせばいつだって触れられる場所にあったもの
だからこそたかをくくって邪険に扱い失ったもの
記憶の中にしか残らなかったあやふやなもの

誓うよ
約束だけは二度としないって
望み通り生まれ変わっても
お城がそのまま残っていても

約束なんて裏切る
言葉にしないでいい
お互いが分かっていればいい
そんなの容易い
結んだ小指を離さなければ





『グラデーション・ラバーズ』

赤と青の淡く交わる境界線
どちらのものでもないところ
どんな名前も持たないところ
ひとの手と手の結ばれる懐

あまり認識されていないものは
それゆえにとても優しい
いつだって自分のことばかり
真っ先に考えていられるから

副詞ばかり重ねて進まない議論
他愛も無く間合いも物足りない
可愛げもなく爛れて
乾いていくしかないみたいな

どちらでもありそうで
どちらでもないところ
誰かのものになりそうで
誰のものにもならないところ

周囲で車輪は転がり続ける
魂の輪廻みたいに
呪詛は紡がれ止まない
知ってる患者の歌声みたいだ

動かなくなっても
どこまでも続き続ける
とめどなく覆しながら
明け方の真新しい幻聴のよう

最初で最後の夜更けにきっと
あなたは僕を刺すだろう
あなたのいちばん優しいところで
僕が一番好きだったあなたで僕を