青い丘陵を踏みしめながらぼくは
最初で最後の言葉を探している

手紙に書いて封をして
検閲の無いポストへ入れようと思う
白い手袋が汚れるまで何度でも

あなたはぼくにふれない
ぼくはあなたを傷つけたくない

どちらも火薬みたいにおとなしい祈りだ

雛が空から落ちて行く
夜からは星が
地からは呪いが
ぼくからは文字が

微熱いまだ冷めやらぬまま
滲んだ雲のしたで
夢のように繰り広げられると感じる
あなたは今日も誰かを好きになる





目が覚めたら白は銀色に輝いて
他はだいたいくすんで見えた
色が減って見えていた

広い場所に立って
水平線を眺めると
星の丸いことがわかる
ここが瓶底みたいだってことも

欲しくないものがたくさんある
手に入れてしまったのは
それを欲しいひとがいて
手に入れそうになっていたから

誰もぼくをさしおいて
満たされてはいけない
いつまでも欲しいものがたくさんある
満たされないあなたを好き





白い腿
熟れた嘘
黒い影
爛れた秘密

美しくなんないように
美しくなんないように

そうやって息するの簡単じゃないんだね

死んでいって欲しい
殺されていて欲しい
生きていって欲しくない
きみに生き延びてなんていて欲しくないんだ

だって、
かわいそう。

これが優しさで愛です
これが純粋です究極です

知らないはずはない
おんなじものをきみに
語られたことがあるんだ

夜が割れた宇宙の一コマ
怯えた瞳に鮮血のドレープ
意味不明のまま愛を語られていた
流星はためらいながら肌に光植えつけてた





午後六時の黄金色
多肉植物の影がのびる

不揃いな前髪の
まぶしそうに僕を見ている子ども

修正済みの標識が
明日のありかをおしえる

盗まれなかった
攫われなかった

危険をおかして
奪われることの歓び

それがないならもう
見る夢がないよ





百年経ったらきみは忘れる
これはぼくが断言できる
百年経ったらきみはいないから

感謝も偽善も汲み取られて
星にも水にもならない
思い出にも記憶にも残らない

懐かしい家屋の跡地に
誰かが由緒あるものを植えて
それが雑草と交配をくり返して
命と引き換えに識別される機能を損なうんだ

あれほど一輪でありたがったのに
あれほど一言で呼ばれたがったのに
悲しいと思う、
腹立たしいと思う、
それもなくなるいなくなる





比喩の魔法は消えて
柔らかな皮膚は消えて
魂が転がり落ちる
先の見えない坂道を
おそろしく長く
見通しの悪い坂道を
安寧は停滞と等しいこと
美醜は問題でなかったこと
輝けないからくすぶること
甘えだと呼ばれたくない
速度を増して光になる
剥き出しの敵意と自我で
もう誰も振り向けない
ぼくは遍く満ちている
きみの読みかけの本のなか
あなたが切りつけた刃物のほうに





好きなもの同士がつながる
どうしてもそれを祝福できない
やさしくなりたい

雪につけた足跡は春になって洗い流せるね
さらけ出していいのは本心がきれいな場合に限るだろう
目から舌から暗雲が零れだす

ぼくの庭園には霊廟が並ぶ
色とりどりの虫や植物にも隠し切れない
そもそも彼らは無意識なんだ

やさしくなんかならない
なれない
そんなものを願ったり祈ったり
しているあいだは





消える幻に見慣れない僕の背中を見た
遠ざかりながら近づいてくる季節
青と白の曲線を境界線と呼んだ十四歳
死ねないものが笑い世界ははじけ続けた

壊したいのでなくて確かめたかっただけだと
それが傲慢だと分かったうえで分かってもらおうと
まっすぐな道を斜めに見据えた
矛盾を内包して音は水面に反射し続けた

どこかで何かが終わったりはしなかった
いつか見えなくなって抜け出しただけ
大量の流血に見立てた絵の具は赤色ではなくて
雲の無い青空を贅沢に照らし続けた





輝くものは残酷だ
視界がちらつく

伝わってしまうことを恐れ
俯いて歩くしかない生き物に
たとえば夜なんかは優しい

世界が仕組んだのではなく
ましてや思惑などなく

この塊が徹底的に無関心とされていること
そのことに安心を覚えるのにちがいない

遠ざかるほど青は澄みながら深く
ときどき銀色にけぶっては
振り返るぼくを柔らかく嘲笑っていた

持ち主のいない死体の
奔放な漂流を羨みながら
なおさら大事そうに抱えながら
前へ進むだけの非力なぼくを

臆病をゆるして
約束はしないよ
かわりに祈っている
光を奪ってそんなにも輝かないで





毛皮の魔法使いは言ったんだ
ほんとうの魔法はおまえが使っていると

森の王子様
眠る王子様
彼は百年も夢を見ている
お姫様を助け出す夢を

いばらに覆われた高い壁
いつまでも眠るからいつまでも死ねない王子様

魔法に魔法をかけて
いつまでも閉じ込めておけたらなあ

鏡をのぞいたらわかってしまう
むこうに立っているのは
あなたが願ったぼくという魔法使い

おやすみ王子様
おやすみ森
おやすみ魔法
おやすみ月と太陽

おやすみおやすみ、
みんなおやすみあともう百年