輪から外れて
飛んでいく光ひとつ
不完全な球体
なんとか保ち続けて自由

住んでいた町のうえ
眩しがった川面をはねて
名前に頼らないで訪ねる旅

おかえりを貯めたら
そこから離れたっていいんだ

ぼくはそういいわけしながら
いいわけを与えるつもりだった
きみの温度からふわふわと忘れる





好きになろう好きになろうと努力して
ますます僕を嫌いなきみを好き

いじらしくて拙い
状況としてかなりまずいよ
それは

どんなに庇って歩いても
靴は雨に濡らされる
濡らされまい濡らされまいとするから

僕が雨だ
きみは勝てない

雲の上で星座から放たれた光がわだかまる
届く場所へ届かないで
欲しいとも欲しくないとも感じさせないで





緑が濡れて
空も濡れる
みんなの宇宙も
あたらしい猫の背も

今日もきみの夢を見たよ
昨日も一昨日も
産まれてから
この先もきっと見るよ

いっきに退屈な一日
タイヤが水を跳ねている
色とりどりの花が散っている

肌は滑り
唇に熱い
髪が絡まると
膝小僧がぶつかる

生きること
愛すること
それほどいいとは思えない
どれもただ平等にあるだけ

あなたのいう美しさも
ぼくの知らない輝きも
湿りながら漂っている
まとまりのないこの世の岸辺
結ばれないまなざしの付近を





遠くから見ている
何かに包まれて見ている
光と音が不鮮明な中で
きみに照準が合っている

耳元で誰か囁く
棘をはらんで風みたい
言われなくても
わかっていたこと

ふいにおかしくなる
かんたんで微笑ましい誤解だ
ぼくは
ぼくはきみを分からないでもいい

ぼくの見る世界で
きみはいつもぼくといない
ぼくが見る世界は
いつもぼくが欠落していて

でもきみは見える
ぼくの目に見える
ぼくと出会う前と
変わらずぼくには見えている

好きだった
そのことがとても好きだった
いつかぼくのものじゃなくなっても
それが変わらなければいいと思う

あっちへ行って
他の人に笑って
あまねく溶けて
薄まらず満たして
ぼくだけを見ないで
きみをしか見ない
見ないで
汚れやすいこのぼくばかりをそんなに





六月のプールサイド
ジェリーが光を封じる
教室からカノンが聴こえ
悲鳴は慎ましくかき消される

明け方のぬるいアスファルト
落とされた者たちのつかの間の楽園
所在無さげにまるまった小さな命
玄関先のリズミカルな足音

かのひとの遺言を諳んじて
空き缶に活ける花の影
やわらかな手のひらに爪を立て
きみのすべてがぼくを愛している





自転車を降り妖精の死骸を跨ぐ
夜は昼よりたくさんの光を集めて
何を捨てても世界はうつくしかった
誰に捨てられても世界は

身軽なのは奪うばかりの海のせい
砂の街は人知れず溶けて
いつか呪いながらあつめた
貝殻いっぱいのスパンコール

振り返って名前を呼べば
疑わしげな視線が縋り付いてくる
だからぼくは教えてあげる
きみはもうここにしかいないよ





卵を割る
黄身の丸さを目の当たりにする
カーテンをあける
蕾がいっせいに花開いていて鮮やか
犬が吠える
太陽が顔を出す
隣室の祈りが止む
毎朝毎朝
世界がぼくをいらないって言う





生き急ぐ
ひとを笑うな
死に焦がれる
ひとを笑うな

あなたが望まない
ものを望む
心より望む
ぼくを笑うな

あなたが捨てるなら
ぼくが喜んで拾って
あたらしい言葉を教える
あたらしい文字とか教える

あなたが知らない
ぼくもまだ知らない

ひとから見たら魔法のような
そしたらまるで楽園みたいな

生き急いで
死に焦がれて
今にも完全にくたばりそうで
なお
不完全に繋いだ手を離さないもの

錯覚をふくめて幸せになれる才能ひとつで
あなたのだいじな地獄なんかを切り裂く





ぼろぼろの一日のさんざんな終わり
かたくなに閉ざしたまぶたの
裏側にある柔らかいとこに夜がはいって
余すところなく甘くひろがる
懐かしいほど遠い星の冷たさをたたえて
やっと出会えたと告げ合うためだけに





ぼくを目覚めさせた雨とこれまで世界に流れた血とどちらがどれくらい多いだろう
格子窓からむこうの景色は届かないってだけで繋がっていること、三枚の羽根で冷やされた皮膚にくるまれて今朝もただしく鼓動と呼吸をしていた、 逃げ出した隣人のピアノの音がしずくみたいに鼓膜に降り積もっていつかあふれる
朝の時間は輪郭を奪われて蕩けていきそうだ
優しいきみはぼくを正気に戻したくなさそうに満ち足りていて、そんな愛と以前もどこかで触れあっていた気がするんだ
誰にも名前がない頃、ぼくを知るひとなんて当然まだどこにもいなくて空がまだ一滴の雨も落としたことがなくて、飽和寸前の頃とかに。