ぼくの愛はある
生き延びなかった猫に
枯れることもできない
壁にかけられた瓶の花に
爛れて笑われる皮膚に
条件を満たしながならなお
孵化できなかった
からっぽの魂に
そのすみずみにある
きみは足りないばかりで
とても愛で慈しみやすい
それがなければ
いつまでもいられないこの世





透明のドームに祈っている
きみがぼくに嫌われないよう
いつまでも嫌われませんよう

永遠と思ったのに
色褪せた人魚の涙のせいだ
流さなければよかったのに
その程度でしかないなら

ひとはぼくをして冷たいと言う
それは感じかたによるから
あなたは熱いねと言い返すか
聞こえなかったふりでやり過ごす

たったひとりのきみは特別
ぼくに不自由な概念を植え付け
そして知らないふりでやり過ごす
ずるい確信犯だ、ずるい

新しいぼくを待って
きみのきらいかたがまだ
どこをさがしても見当たらない
きっと探しかたが足りないんだ

嫌いになるために優しくしてみる
嫌いになるために嘘をついてみる
嫌いになるため、嫌いになるため
言い聞かせて今日もまた隣で見張る

わかるよね
きみもぼくもひとり
どこまでもひとり
唯一無二のひとり同士だということ





どうか溢れますように

君の傷に
僕の血が
僕の目に
君の涙が

まなざしの先に
もも色の夕焼け
あまねく潤んだ街

掟は退屈だ
守っているうちは
蛹だからって
蝶にならなくても
いいよね

新しいものに
殺されて
息を奪い合って
古いものを
殺しながら
息を奪い合って

必要でないものを求める
欲しがっては
いけないものを欲しい
口にしては
いけないことを叫ぶ

君が大切にしているものを
きっと守るよ
僕が君にとって大切になるために
まずはそこから





きみが、永遠に消えられない存在であることが僕にとって、何より嬉しくて、何より楽しいことなんだよ。天国と地獄と名付けた二匹の野良猫が、大事にしていた蝶々を食べてしまったこと、悪びれずに話しているあいだ、僕はとても幸せだった。産まれてすぐに死ぬみたいに。見慣れたコンビニの看板を、新しい惑星でも見ることができるよ。傷に重力はない、だからこの星から外へ持ち出すことはできない、誰も。傷の深さでしか結ばれ得なかったふたりは、あっというまに他人同士だ。いいね。きみには愛するものがいないことを、笑っていた誰かも、信じるものがないきみのことを、いつまでも見張っていた誰かも、みんな、みんな平等に退屈な 星になる。見上げる者のいなくなった地球に、ときどきその影を落とすだけの。そして言ったりするのかな、見上げていた頃に戻りたいって。あんなにむげにしていた隣人はその時、何億光年も遥かなのに。悪じゃなかったさ、街灯に照らされながら、落ちぶれていくことは、ちっとも。それを知って流した涙は、もう、あっというまに塵になるけど。





覆った目に
映り続けていたもの
塞いだ耳から
流れ込んでいたもの
鮮やかに優しい景色
ずっとやまない音楽
なだらかな曲線
打ち寄せる潮の香り
ぼくが忘れたくらいで
消えてなくなる魔法じゃない
百年より長い一年
一世紀より長い一秒を
ずっとひとりで生きてきた
きみと共にただ生きるため





重ねた言葉を
嘘だねと一蹴される
誰がつきたくてつくもんか
近づこうとして遠ざかっただけ
あなたはいい
ぼくとは分離できる生き物だから
ばらばらで遠ざかってもいい
もっともらしい真実は装飾
知らなければよかった
なんて言うのは
惨めを通り越すほど
足掻いた後でもいい
まっすぐにとか
ひたむきにとか
そんな修飾のいらないくらい
今日と隔たる昨日と明日のはざま





噴水を浴びて笑う子ども
僕にもあったな
誰かの特別だった頃が
緑に覆いきれない灼熱
このまま溶かそうとするんだ
時間を
気持ちを
隣人同士を
信じたって裏切るよ
それは裏切るよ
背中に今も傷がある
僕はそこから
流れ出したものばかりを数えて
あなたはそこから
注ぎこめるものがあることを僕に教える





僕は死んだ
あなたの好意のなかで

水滴に滲んだ街灯のオレンジ
ちいさな放射状に看取られ

たくさんの祖先
まだみない子孫

叶わなかった明日
ふいにした今日
懐かしがった昨日

返事をしなかった手紙
壊れたままの換気扇
干しっぱなしの洗濯物

萎んだ蕾
乾いた洗面所
買って履かないスニーカー

遺書もなく
予兆もなく
憶測も許さず

こんなにたくさんを残して
これほどの贅沢のなか
僕は死んだ
孤独なあなたの優しい好意のなか





命にかえてでも守りたいものが
僕を世界から孤立させる
言葉にすれば嘘だらけで
沈黙も味方してくれない
好意は誤解され
捨て身は敗れ去る
波は打ち砕かれながら
何度も寄せる
笑い声を内包する潮騒で
いつだって死に場所を携えて
白骨は八月の雲の色
あいかわらずどこまでも
自分にもあるものだと確認したい
何もないままどこかへ去って行きたい
姿を変えてまた生を始めよう
君の手から放たれたら夢に見た放物線





嫌いなものを増やしたくない
好きなものを減らしたくない
閉じこもって狙い撃ち
紐に育った糸を持て余し

血を浴びよう
波に乗るように
白骨に触れよう
朝を迎えるように

皮膚が伝える
ものを信じられるかを
賭けよう
言葉を飲み込んで

たとえば薬指を
賭けよう
文字は使わず
いちばんの沈黙のなかで

伝えたい
それがいけない
分かり合いたい
それを願うと壊れる