陳列された優しさを選び損ねて烙印を押される
誰も愛せない体と頭でいるせいで遠巻きに眺められる
それを素直に表したばかりに人間扱いを止められる
僕が本当に大切にしたかったものは君にとって単なる食糧で
しかもそれは必ずしも必須ではないということがそもそもの不幸だった
何も言わず従うことの恐ろしさを忘れないでいてよ
頬や二の腕に浮かび上がる波紋はあの日からだ
いつかきっと君は僕を笑うかもしれないと知ったあの時からだ





すべてに手の届く場所は
水の中に潜っていって
たまに顔を出し月夜に驚く
生き物はみんな分裂したのだ

組み合わせ次第で無限の
表情や感情は似たり寄ったり
そのことは天国であり奈落であり
つまりは二度と生まれたくない

世界は裏側へ沈み
だから明日になればまた昇るけど
何も起こらなかった今日を
何もなかったからという理由で忘れたくない

平和でも危険でもない昨日を
ぼくときみでどこまでも抱えて歩く
終わりも始まりも見えない
誰かの集めた白い貝殻の道の上を





きみはぼくなどに侮られていてはいけない
大切なことは先頭に持ってこないといけない
策略に長けたものに添削をさせてはいけない
誰かの価値観に引っ張られてはいけない
不器用を誇ってはいけない
傷つくことを恐れてはいけない
という言葉に怯んではいけない
傷つくことを恐れてはいけない
という言葉の正しさにだけは傷つく必要はない
彼らはきみを支えてくれはしない
すべてを否定した後になお残るものを数える
きみは知るだろう
必ず知るだろう





暗闇より深い
濁りのない透明のなかで
終わりより唐突な
途方もない始まりのときに

ぼくが変わって違うものになったら
ぼくは捨てられると知ると思ったんだ

記憶の再生は追いつかない
妄想でさみしく補填する
この星のどこかで救われなかった
ぼくはまだ不束に抱えている

捨てるべきだ
握るために
手放すべきだ
掴むために

そのすべて吹っ切って
そのすべて貫いて
そのすべて打ち砕いて
そのすべてに告ぐ

きみは誰だ
おまえは僕だ
僕はあなただ
あなたは僕たちだ

逃げ切れなった
逃げなかった
変われなかった
裏切らなかった
後付けの約束
退廃した真心

生まれ変わらない僕を
まだ知らない
あなたにずっと
そそぐためだけに巻き戻された歌





森に足を踏み入れてすぐ
何かを隠していると気づく
青い海に潜って
暗い部分との境目で感じたときのように

明るい場所に生じるひとひらの闇が
暗い場所に生じる一抹の光が
答えに飛びつきそうな体を抑える
調教の途中であることを忘れさせない

どこか適当なところを不具にして
誰かに哀れまれながら愛されるほうが
いいなんて綺麗事だなんて誰も言えない
言ってはいけないんだ

禁止されたものは美しく
恐れられたものは魅了する
なぜなら禁止されたものだから
なぜなら恐れられたものだから

鳥は囀り虫は羽ばたく
木の葉はざわめき樹液はしたたる
完璧であることがもっともそぐわない場所
立ち入った形跡は隠し立てされたまま

連鎖に組み込まれなくて悪かった
承継に賭さなくて失礼をした
余興以外で見せない
誰にも関わらせない

嫌い合って産み合うこと
殺し合って癒し合うこと
でたらめだって添い嘆くこと
どれも虚しく、どれもただ等しく柔らかい

言葉もない朝食
視線だけ絡ませて口に運び合うスープ
それは
昨日までの僕たちにとって最愛の連れだった





優しさは絶対に凶器
僕は悪意よりはるかに
好意のほうに怯えている
甘やかした罪悪感が
ずっと幅を利かせているせい

ありがとうと言えない
言わないんだ
かわいげのない決断
正しい子どもでごめんなさい
付け入る隙が無いままでいることも

お気に入りから遠ざかり
身の破滅をしずしず願う
それで許されると言って
それで許されると知って

季節と信号だけが確実に
神様の微熱と天気とを反映させる
時計台に羅針盤
いつか尽きる脆さだけ救いだよ

今夜もまた同じ
知り尽くした回転
螺子式の当然
誰かが誰かを愛しはじめる
誰かが誰かを殺しはじめる

知りたがるから教えたんだ
一度ならず言ったはず
僕は傷つけかたを知らない
過不足などあるはずはないのに
あなたは僕をそんな目で見る





きみなら知っている
針金に血を通わせる方法を
暴力で人を安心させたり
繊細な神経から逃れる術を

真新しさは残っていない
語りかけても返事は来ない
駆け出してから何年も経った光が
間違った名前を照らすだけの夜

誰かの大切なものを壊したいと
それでずっと忘れられたくないと
もう他に方法のないことを
知るつもりはないままわかっていた

月を乗せた船が海を離れ
彗星の航路が宇宙を彷徨い
巨大な観覧車の流れに乗る頃
ネオンを知らない地下鉄で目を覚ます

ハンカチのかぶせられたそれを
座席に置き去りにされたそれを
明らかにする気分ではまだない
いつになってもなれないよ

小鳥の心臓に銃弾が入ってあります
目の前に倒さねばならない敵がいます
小鳥は唯一の肉親でぼく以外です
空っぽの銃だけがぼくの手持ちです





待つ余裕は無い
ぼくたちのほうが
まちがっていると世界が
そう言わなくなるまで

新しい夜
繰り返す朝
いつか見た夕陽
息が止まりそうな
異質たちの変わり目

繊細に象られて恨めしい
粗野で醜くないことの代償
鑑賞されて批評をされて
それでもたまに世界が輝くのは

きみがいることにのみ起因すると
それ以外に理由は無いんだと
これから先もずっと信じていたい
離れてゆくばかりの夏の一日
誰の手を握ってもきみの名前を呼びそう





君に告ぐ
早くくたばって
僕が願ったように
傷つかないために

いつか人を傷つける
備えた強さは
やがて崩れ去る
ひたむきに信じたものは

そうじゃないと言う
そう信じたいひとが
僕について嘘を言う
騙されるべきではない

磨耗して衰弱する
翻弄されて見失う
不信に陥り貶める
自棄になり均一になる

離脱の合図
迎合における霹靂
生きていけるわけはない
明日を願うことの弱さ

這い上がる腕で
もしかすると触れられた頬
後ずさる脚で
ほんとうは歩み寄れた初恋

愛と呪いの匙加減
呪縛しろ
くたばれ
落ちろ早くこの手のひら





欠けた場所に再び満ちる
小鳥の羽毛くまなく染めて
形と名前をすぐに与える

まだ去らないでいい
誰が許さなくても
光らなくても見つける

回遊する箱の中
暗示にかかることを夢にみたんだ
花束を抱えた幻に出会えることを
またここで会えることを

僕と君は覚え始める
はじめの一から
忘れる日のためにであっても
百までも千までも

死なないことを知らない世界で
たったふたりで
それ以外に何もなくても
それから先に、なんにもなくても