「また食べてんの?」
 呆れたハチの声に、ナナセが顔を上げる、「食べてる」。
「……ナナセ。俺はお前の嗜好にまで言及しない」
 ハチはナナセの顔面血だらけぶりに今回こそうんざりしたように天井を仰いだ。
「ただな、食うなら食うでもうちょっと上品にな」

 殺人、業務番号92。




9 2




僕の仲間を紹介する。まず、ハチ。官僚の息子。ハチは、こんな仕事しなくたって生きていけたんだ。そう云うと間違いなく拗ねるけどね。彼は。ハチは父親と仲が悪かった。尋常じゃなく仲が悪かった。14の頃、父親の愛人を寝取った。その頃からハチは学校になんか通っていなかった。僕は、知りもしないんだけどね。学校という施設のことなど。ハチは、父親に反抗するために学校をやめたのだと云っていた。それから、「幼稚だな」と自分で笑っていた。僕は、そうは思わないけど。ところでハチの左右の肩胛骨には悪魔の羽根のタトゥーがある。超のつくヘヴィーースモーカー。大量のニコチンとタールに肺を茶色に犯されて、ハチは間違いなく僕よりも早死にするだろう。いずれ。

つぎに、ナナセ。父親不詳。母親は、某歓楽街の有名なストリッパー。ナナセが小さい時ドラッグに溺れて22で自殺した。(ナナセは16の時の子ども)。でもナナセはツイてた。引き取り先がとうとう見つからなくても、母親譲りの美貌と愛嬌で自分を売って、食と寝場所には困らなかった。たいていの人ははじめナナセを女の子だと思う。(ハチもはじめ騙されていた。脱がすまで納得しなかった。莫迦だろう?)。猫みたいなやつ。我が儘で横着で無頓着、そのくせ死体には例外なく発情する。(天職ってやつ?)。暇さえあれば男でも女でも引っ掛けて2日も3日も帰ってこない。

僕について。名前はロク。自慢するようなことは、これといってないけれど、料理は他の2人より断然うまい。それだけは云わせて欲しい。あいつらのつくる料理は、それこそ殺人的だ。特にナナセのはすごい。ナナセは見境なく「ナマモノ」を入れる。

「ハチ。絨毯に煙草の灰おとさないでね、足つくから」
「わかってる」
頬杖をつくみたいに煙草を吸う。これはハチの癖。ハチはナナセを時々へんな目で見ている。好奇でも不快でもなくて。何だろう。僕は知らない。その視線の意味を。
「……ナナセって本当にぐろい事が好きだな」
「食事中」のナナセには何を云っても聞こえないことを知っているハチは、僕にそう云ってくる。ナナセは切開した内蔵の中に鼻先まで埋めて血をすすっている。腕や脚はおいしくないんだそうだ。筋肉の発達した箇所は。
「仕方がないよ。ナナセが好きなら」
「……何か、あったんだろうなあ。こうもいかれるまでには」
ハチがぼそりと呟いた。
「そりゃ、あるだろうさ。でなきゃこんな風には」
「お前だって、あまり語ろうとしないけど、あるんだろ。なんか」
「人間だもの」
「人間、か。産まれない方がよっぽど良かったな」
ハチは笑っていたけれど、半分本気だったと思う。
「さ、もう行くぜ。隣人が通報したらしい。おい、ナナセ。置いてくぞ」
ハチは口ではそう云いながら絶対にナナセを置き去りにしたことがない。ナナセに手を差し出すのは僕の役目だけど。夢中だった瞳が一瞬きらりと光って、にこりと笑った。うわあ、この男殺し。いや、ナナセだから女殺しか。ん、人殺し?……ま、どうでも良いけどね。




いつ終わるんだろう。こんなの。




040627