芝生に身を投げ出して高い空を見上げていると、風が自分を弔っているような感覚に陥った。
 立方体の建物の中央は筒抜けになっていて、白い四つの壁に囲まれているここが、中庭。
 白衣の研究者がそれぞれ異なるペースで棟内の廊下を歩いているのが見える。
 右の手を動かす。左の手を動かす。
 左の方が痺れている。
 動かない男を抱いているからだ。黒い髪。瞼の下の瞳も黒かったことを、おれは知っている。薄く開いた形で硬直している口がどんなふうにおれを呼んで、どんなふうに語りかけたか。
『リー』。
 その声はもう二度とその名前を呼ばない。
 起き上がりたくない。
 おれは巨大な棺の中にいるようだ。
 白い塔。
 緑の草。
 誰が望んだんだろう。
 こんな場所。
「風邪をひくぞ、リー」。
 誰かの影が光を遮り、おれは一抹の望みをかけて目を開く。そして失望する。
「なんだ、貴様か」。
「相変わらずひどいな」。
「・・・ロラン」。
 自分と同じヴァンを見上げる。陽気な態度は時に不躾に感じられつつもおれを気遣ってのことだ、そのことに気づけないほど不注意ではない。
「そんなにいい男かねえ。そいつ」。
「貴様には分かるまい。分かられたくもない」。
 子どもの駄々みたいな口調になってしまったおれをロランが笑う。
 死者を悼むようにおれに触れる。
 かつて人間だった者の手で。
 今はもうヴァンの手で。
 ヴァンが建てた研究棟の中庭で。
 人間の生き残りを繰り返し再利用する世界で。
 老衰の機能、引いては、死を、取り戻したがって。
 再利用する、世界で。
 死ねない、世界で。

「それで、もう、何人目の銀だ?」。

 揶揄するようなロランの声。

 玄関先で手を握った小学生のギン。
 苦手なニンニクを食べてくれたギン。
 夏の川で泳ぎを練習するギン。
 制服のネクタイを緩める高校生のギン。
 社会人になった研究者のギン。
 逃げよう、と覗き込んできたギン。
 老いて皺だらけのギン。
 すべて、すべて、異なる個体。
 しかしその識別記号、一律にSILVAN。
 死の記憶を有する、最後の希望。
 さよなら、また会おう。
 銀。
 おまえが再生される限り何度でも目覚める。
 いつか終わらせてくれ。
 そう願う疾しさを、許さないでいていいのなら。





ヴァンパイアが語る